2015年1月中旬、東京ビッグサイトで開かれた、「第8回 国際カーエレクトロニクス技術展」には、多くの半導体メーカーが出展した。ルネサス エレクトロニクス、Infineon Technologies、STMicroelectronics、ams、Bosch、Spansion、ローム、Xilinx、Alteraなど極めて活気があった。自動車用半導体でトップを行くルネサスは、クルマ応用のソリューションを提案するビジネスを本格化させた。

ルネサスは、集中と選択によって展示会を絞り込むようになった。いわゆる「おつきあい」の出展はもはやしない。2014年9月に自社開催を行った「DevCon」では、クルマの運転席正面のインパネやカーナビを含めた、コックピットの未来像を提案した。同社の自動車ビジネスを率いる執行役員常務の大村隆司氏(図1)は、2015年1月はじめのInternational CESに出かけ、会場の近郊にあるホテルにスイートルームを確保し、分刻みのスケジュールで8時から20時まで国内外の顧客とミーティングを持った。本来、海外の展示会の目的は、3日間で効率よく数十社の顧客に会うことだから、出展というよりもミーティングが最優先される。この意味で、ルネサスもようやく多国籍企業の仲間入りを果たしたといえる。

図1 ルネサス執行役員の大村隆司氏

海外企業の多くはクルマに力を入れるようになってきた。IntelやNVIDIAはクルマの実機を展示し、彼らのチップで何ができるかを中心に展示技術を見せたという。Intelは国内のCEATECに初めて出展した時もチップは見せずに、チップで何ができるかという、さまざまなデモを中心にブースを構成した。NVIDIAは筆者が参加した2年前のCESでは、いわゆるスーパーカーの「ランボルギーニ」を展示し、プロセッサを搭載したランボルギーニで何が実現できるかを示した(図2)。ルネサスの顧客である海外のティア1サプライヤは特に、展示会での力の入れ方がすごいと大村氏は感じたとしている。

図2 International CES 2012でNVIDIAはテント内ブースにランボルギーニを配置していた

クルマ用半導体でのルネサスの強みは、ITと制御の両方を持っている点だ。この大きなメリットを解説しよう。その前にプロセッサには、演算命令と制御命令があることを知っておく必要がある。演算することが中心になるのはアルゴリズムを計算する場合である。ここでクルマにおけるITとは、衝突防止のため、人間や他の乗り物を検出するためのアルゴリズムを計算するSoCあるいはシステムLSIのことを指す。システムLSIは、文字通りシステムを実行するための高い演算能力を持ちソフトウェアでプログラムできる半導体チップである。これに対して、クルマ用の制御ICは、マイクロコントローラ(マイコン)のように、何番地にある命令を使って、何番地のデータを何番地に移せ、というような制御を中心とする。演算能力はさほど重要ではない。

ルネサスのメリットであるITと制御の例を挙げよう。自動運転技術の最初の段階に相当する、自動ブレーキシステムでは、ITと制御が必要となる。システムLSIでは、カメラあるいはミリ波レーダーを使って人やクルマを検出すると、それらを四角で囲み、その対象物が動いても追跡するという演算を行う。距離はその四角い枠が大きくなると近づくと判断し、小さくなると遠ざかると判断する。これ以上危険だというところまで近づくと、このシステムLSIはマイコンなどの制御ICに連絡する。マイコンは、ブレーキを動かすためのモータを動作させる。マイコンはモータ駆動回路にオンさせるデータを送り、モータに実際に電流を送るのはパワー半導体である。ルネサスはIT系のシステムLSIと制御系マイコンの2つを持っており、かつ自動車システムを理解していることが最大の強みとなっている。さらにつなぎとなるアナログICやパワー半導体もある。

図3 ルネサスはIT系の「R-CAR」と、制御系の「RH850」を持つ (出典:ルネサス エレクトロニクス)

この衝突防止システムや、視点変更できるサラウンドビューシステムなどが可能なシステムLSIとして、2014年8月に発表した「R-CAR V2H」(参考資料1)は、すでに国内外でデザインインを得ていると大村氏は語る。CES開催の前、欧州で2014年11月に開催された、Electronicaではティア1だけではなくOEM(クルマメーカー)とのミーティングもあった。ルネサスは商談ルームを10室程度用意し、価格交渉を含めた現実的な商談を行ったという。半導体メーカーのルネサスが直接の顧客ではないOEMと話をするのは、OEMがテクノロジーをティア1サプライヤからの推薦ではなく、自分でテクノロジーを決めたいからだ。

ルネサスは顧客やOEMとのミーティングでチップのロードマップを示した。ElectronicaやCESのミーティングなどを通して、R-CARシリーズの第2世代製品の採用が決まったという。この製品は2017~2018年発売のクルマに搭載されると見られている。さらにその先の2020年搭載を目的として、第3世代の製品開発にも力を入れる。2014年12月の「IEDM(International Electron Device Meeting)」で発表した16nm FinFETを使ったSRAM技術は、この第3世代のR-CARへの集積を目指したものだという。これはOEMからの期待に応えたものだとしている。

2014年はファウンドリにおいて、16/14nm FinFET技術はまだ歩留まりが悪く、量産が遅れていたが、2020年ごろは安定したプロセスで製造できるはずだ。ルネサスは、欧州とアメリカに拠点を設けており、「クルマビジネスはグローバルなチームで動いている」(大村氏)。米国のラスベガスで開催されたCESや今回の東京でのカーエレ展にはドイツの社員も加わっている。

ルネサスのソリューション提案は、半導体チップだけにとどまらない。これまで培ってきたクルマの機能安全とセキュリティのノウハウである、ソリューションを提供することもカーエレ展で発表した。このソリューションは、機能安全規格ISO26262と、セキュリティを組み込んだソフトウェアだけではなく、確証方策レポートや検証レポートなども出力する。このソリューションには、ユーザーがハードウェアの安全要求やセキュリティの供給を構築する場合にハードウェアと密接にかかわる部分のソフトウェアを含んでいる。CPU自己診断をはじめとする各種の診断やセキュリティのソフトウェアなどである。セキュリティでは、そのアプリケーションノートや安全分析、脅威分析なども含む。このソリューションがあれば、ユーザーは機能安全とセキュリティに関して開発が容易になる。

参考資料

1. 連載64 画像合成・認識・視点変換・座標変換を搭載したADASチップをルネサスが実現(2014/08/29)