自動車用のモータといえば電気自動車を頭に浮かべる人が多いと思うが、実際のクルマに搭載されている小型モータの数は高級車で80~90個、ミッドレンジ/SUVで40~50個、軽/コンパクトカーでさえ30~40個にもおよぶ(参考資料1)。もちろん、ハイブリッドカーや電気自動車にはクルマの駆動力になる巨大な容量のモータが搭載されている。

モータは、パワーウィンドウや、ワイパー、パワーシート、パワーステアリング、ポンプ、エアコンのコンプレッサなどクルマ内のあらゆる動力に使われている。これまでは多少、大きな力や動力には油圧ポンプが使われていた。ただし、その油圧ポンプを動かすのにもモータが使われていた。モータは、マイコンからデジタル信号で簡単に指令を送りパワートランジスタから容易に駆動できる。他の駆動系ともリンク(同期)をとることも易しい。例えば、夜間の運転でハンドルを左に切るとフロントライトも左に向きを変えられるAFS(Adaptive Front-Lighting System)では、フロントライトの向きを変えるのにモータを使う。

クルマのモータ市場を狙った部品ビジネスを展開している半導体メーカーがある。旧三洋電機の半導体部門を買収したON Semiconductorだ。モータを駆動するための電流を供給するパワーMOSトランジスタやそのドライバを設計製造している。

ON Semiが注力するモータドライバの分野は、図1のようにソレノイドドライバやブラシレスDC(BLDC)モータ用のドライバ、LED/リレードライバなどがある。同社はステッピングモータのドライバに強いという。ステッピングモータは、パルス的に決まった角度だけ回るモータであり、ON Semiのドライバは角度の位置制御が優れ、LINやSPIなどのデジタルインタフェースをチップに内蔵している点だとしている。

図1 ON Semiが注力するモータドライバの分野(出典:ON Semiconductor)

3相モータドライブ(BLDC)の用途も増えている。クルマの燃費改善対策の1つが、軽量化である。従来のパワーステアリングでは油圧ポンプを使っており、そのポンプを動かすのにモータを必要としていた。最近では強力なモータの駆動によって、油圧ポンプを介さず、ハンドルを直接アシストするようになっている。

また、エンジン冷却ポンプのモータ駆動や、トランスミッション系の油圧源となるポンプを駆動するためのドライバも要求されている。これは、最近のアイドリングストップ機能で、クルマを止めている間に回すモータに使う。このモータは、スムーズな発進に必要な油圧を確保するために使うもの。こういった用途では、構成要素の部品点数の削減要求から、ハイブリッドICの1種であるIPM(Intelligent Power Module)技術(図2)をON Semiは提供する。

図2 ON SemiのIPM(出典:ON Semiconductor)

このIPM技術は、旧三洋電機が開発していたパワーMOSFETとLSIを1つのパッケージに集積したもの。ただし、旧三洋グループは車載応用では、カーナビやカーオーディオ、表示系などに入り込めていたが、モータ駆動用途には弱かった。この分野はON Semiが強かった。つまり旧三洋のIPM技術を使い、ON Semiの強いモータ駆動に応用する。いわば両社のシナジー効果といえよう。

図2のモータ駆動用のIPM技術には、パワーMOSトランジスタを6個と、それらを駆動するドライバ回路、保護回路電源回路、インタフェースなどを内蔵している。他のECU(Electronic Control Unit)からのPWM(Pulse Width Modulation)信号でIPMに入力できるような用途に使う。マイコンを内蔵していないためプログラム開発が要らない。LINやCANのようなデジタル信号によるECUではなく、スタンドアローンでPWM制御信号を送る用途に向く。

IPM製品がカバーする電流・電圧範囲は、図3のように、40V以下で、最大200Aを出力できる用途であり、モータである。ポンプやファン、電動パワーステアリング(EPS)のような分野である。

図3 ON SemiのIPM製品がカバーする電流・電圧範囲(出典:ON Semiconductor)

リアライトには、今や軽自動車やコンパクトカーにまで、赤色のLEDが使わるようになった。フロントライトでも一部の高級車には使われはじめている。今後は、ルームランプやトランク用などにも白色LEDが使われるようになり、そのドライバ(定電流回路)にパワーMOSトランジスタが多数使われるようになる。こういった用途にもON Semiは力を入れる。加えて車内ECU用途に向けた電源IC(パワーマネジメントIC)として、LDO(Low Drop Out)やスイッチング電源ICを用意している。

ON Semiの歴史は、実は買収の連続だった。1999年にMotorolaの半導体部門が分社化により、ON SemiとFreescale Semiconductorがそれぞれ、ディスクリート、マイクロプロセッサなどのLSIの製品企業として独立した。ON Semiはディスクリートだけでは差別化することが難しく、アナログやPM(Power Management)IC、保護回路、ASIC、オーディオDSP(Digital Signal Processor) などの企業や、企業の一部門を買収してきた。この4月にはイメージセンサに強いTrueSenseを買収した。

Motoloraから独立したとはいえ、日本の半導体メーカーとは違い、親会社だったMotoloraの資本はもはや入っていない。完全独立の半導体専業メーカーであり、少しずつ製品ポートフォリオを広げ、利益を上げ企業としてやってきた。親会社の意向を常にうかがわざるを得ない状況に置かれた日本の半導体メーカーとは違う、彼らの手法は日本半導体産業を盛り上げるための教訓かもしれない。

参考資料
1:車載モータ市場に関する調査結果2008
https://www.yano.co.jp/press/pdf/451.pdf