クルマに搭載されているECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)は、今や一般乗用車で40~50個におよび、ソフトウェアコードの行数は1990年の1万行から2010年には数千万行にまで増加したと言われている。また、クルマの原価に占めるエレクトロニクスとソフトウェアの割合は、1990年には20%以下だったが、2010年には40%以上に達したという。

それもそのはず。クルマは「機械からシリコンへ」という流れが加速しているからだ。鉄などの金属ではクリープや機械疲労による劣化が、時間の経過とともに起きやすい。シリコンで制御する部分を増やし、機械制御を電子制御に変えていくことで、金属疲労をできるだけ減らすことができる。ハンドルやブレーキ、アクセルなどの動力伝達には、かつては油圧を使っていたが、これがモータ制御へと変わってきている。加えて、衝突防止やパーキングアシスト、インフォテインメントなどはこれまでなしえなかった機能だ。PHV/EV(プラグインハイブリッド/電気自動車)化など安全・快適・使いやすさなど便利な機能が新たに多数追加されている。

こういった機能を実現するのは、ハードウェアだけではなくソフトウェアも多用されている。ECUの中核となるのは制御用マイコンであり、独自の機能を持たせるためのソフトウェアである。ソフトウェアで制御系を設計すると、ちょっとした変更やアップグレードが極めて簡単になる。ハードウェアだと、最初から設計し直さなければならない。だからこそ、コンピュータと同じCPUを使い、入出力制御をソフトウェアで行う。ソフトウェアのプログラムコード数はうなぎのぼりに増えていく。

ECUの設計ではこれまで、マイコンや組み込み系のハードウェアを完成させてから、ソフトウェアを開発していた。しかし、これでは開発期間が長くなってしまう。SoC(システムオンチップ)の開発では、ハードウェアとソフトウェアを同時に開発すれば時間を短縮できる。デジタルLSIの場合、RTL設計と検証が終わり、機能が実証されたら、ハードウェアを実現するためのシミュレーションモデルを作り出し、そのモデルをベースにしてソフトウェアの開発に着手する。マイコン開発でもこのようにすれば、ハードウェアの完成を待たなくてもソフトウェアの開発を始めることができる(図1)。

図1 マイコン開発に必要なツールの広がり(出典:ルネサス エレクトロニクス)

Synopsysは、IT機器と同様な考えで、クルマのECUにも対応しようと2つのソフトウェア(SaborとVirtualizer)を開発し、ルネサス エレクトロニクスのクルマ用ハイエンドマイクロコントローラ(マイコン)「RH850ファミリ」向けのVDK(Virtualizer Development Kits)を開発した。

ルネサスのRH850ファミリは、ローエンドからハイエンドまでカバーできるスケーラブルなアーキテクチャを持つマイコン。6MBという大容量のフラッシュメモリを集積、37チャンネルの通信インタフェースを持つ。RH850 F1xは、ワイパー制御からパワーウィンドウやシート調節などボディ制御に適したマイコンで(図2)、単位周波数当たりの消費電力が従来の1/3と低い。

図2 ボディ制御マイコンRH850 F1x(出典:ルネサス エレクトロニクス)

Synopsysは、ソフトウェアベースでクルマのECUを設計・検証するために、MATLAB/Simulinkを使ってクルマ用のステートマシンとアルゴリズムを開発してきた。クルマのコントローラシステムをフレキシブルに対応するようにFPGAで実現した。ソフトウェアを書き換えるだけでディスプレイコントローラにもウィンドウコントローラにも、インフォテインメントコントローラにもなる。これらを専用LSIで作るとなると、それぞれの用途に合ったASICを設計しなければならず、コストが高くついてしまう。FPGAソリューションは、ソフトウェアを書き換えるだけで機能を変えられるため、コストを下げるためのプラットフォームになる。

自動車向けのVirtualizerは、決まった機能を実現するための自動車システムのソフトウェアモデルを高速に作成するツールである。仮想的な試作品を作るためのプラットフォームとなる。故障をわざと注入して、機能安全の要求に対応できるAPI機能もある。

Virtualizerのフレームワークは、故障注入APIと、シミュレーション制御&検査インタフェース、ワークロード作成、仮想ハードウェアモデル、ハード/ソフト解析などからなる(図3)。故障を注入するための基本コンポーネントとして、負荷ライブラリからワークロードを作成し解析ビューを備えている。

図3 Synopsysの開発したVirtulizerのコンセプト(出典:Synopsys)

ルネサスとのコラボにより、VDKはパワートレイン用、シャーシ用、ボディ用の3種類を用意した(図4)。ルネサスのRH850マイコンとこれらのVDKをクルマメーカーやTier1メーカーに納入する。

図4 パワートレイン、ボディ、シャーシ用の各VDKを用意(出典:ルネサス エレクトロニクス)

RH850向けのVDK F1Lプラットフォームでは、RH850コアや周辺ハードウェアなどのマイコン回路に加え、CANやLIN、シリアルインタフェース用の通信モデルも含んでいる。通信に必要な転送先や転送元、転送時間、アービトレーション(バス競合調節回路)などを、それぞれのプロトコルに沿ってシミュレーションする。CANバスの解析も行う。

Synopsysには、物理ハードウェアをシミュレーションするためのソリューションとして、Saborを持っている。Saborは、パワーシステムと、制御系のECUなどのいろいろなデバイスをモデル化しシミュレーションするためのプラットフォームである。回路とシステムの設計や、モデル化と特性評価、シミュレーションとテスト、解析とレポートなどの機能ができる。Saborを使うとシステム設計をシミュレーションし解析して、性能や堅牢性を得ることができる。試作品を物理的に作るずっと前にシステム設計の品質を評価できる。

なおRH850 VDK F1Lは、SimulinkとSabor とのインタフェースもサポートしている。