自動車エンジニアにとって、電気自動車の最大のメリットは、設計の自由度が格段に上がることだ、と言われている。電気自動車には体積の大きなエンジンが必要ない。モータは車輪の中に入れ、直接駆動する方式(インホイールモータ)にしてしまえば、電池とインバータが最も体積を必要とするが、電池は多少ぶ厚い平らな板のような形に収めることができる。インバータはSiCパワートランジスタが実用化されると、高周波動作が可能なため小型に収まる。では、その上に載せるボディをどうデザインするか。この視点が本来のEVの姿であるはずだ。 電気自動車普及協議会(APEV)は、電気自動車(EV)を普及させるために5つの活動を行っているが、そのうちの1つである超小型モビリティの普及と教育、デザインを視野に入れ、今回、学生をターゲットとしたデザインコンテストを開始した。これは、電池とモータ、インバータを1つの共通プラットフォームとして、その上にボディを学生にデザインしてもらうというコンテストだ。

APEVと東京大学(東大)、ダッソー・システムズがコラボを結成。左からダッソーの鍛冶屋清二 代表取締役、APEVの田嶋伸博 代表幹事、同 福武總一郎 会長、東大の山内祐平 准教授

これもEVならではの試みである。APEV会長であり、ベネッセホールディングスの取締役会長でもある福武總一郎氏は、「往年の名車、例えばシボレー・コルベットのボディを乗せてみたい」と語る。このコンテストの狙いは、学生にモノ作りの楽しさとワクワク感を体験してもらうことだとしている。APEVでは、共通プラットフォームを利用して、その上屋(うわや)のデザインを期待している。

このコンテストでは、東京大学大学院情報学環、ダッソー・システムズの後援を得て、1月15日発表の1カ月後の2月15日に参加チームを締め切り、第1次募集を開始する。3月29日に第1次募集を締め切り、審査、2次募集を経て、7月31日に最終的な2次審査を終える。コンテストの優勝者には著名なデザイナーとの交流や、海外の環境エネルギー関連展示会やEV企業や団体などを訪問させる。

審査委員には、日本を代表する建築家の安藤忠雄氏をはじめ7~8名が携わる。協賛企業として、ストラタシス・ジャパンやベネッセホールディングス、ワコム、デル、日本ヒューレット・パッカード、レノボ・ジャパン、アスプロスが参加している。現在もさらに協賛企業を募集中だ。

東大の山内祐平研究室は、SNSやCADを使ったデザイン作業を通して、定量的にその教育的効果を測定するとしている。ダッソーは3次元CADの3Dエクスペリエンス・プラットフォームを提供する。

コンテストのプロジェクトが登場したのは、2012年6月に国土交通省(国交省)が発表した「超小型モビリティのガイドライン」(注:リンク先はpdf)によって、車両区分や安全基準などの法整備を促進することを発表したことが大きい。このガイドラインの発表によって自動車大手各社はこぞって超小型モビリティを発表、実験を開始している。国交省はこの答申をベースに11月22日に「超小型モビリティの認定制度の策定に係る意見募集について」を報道発表した。この関連資料として「超小型モビリティの認定制度について」(注:リンク先はpdf)がある。この資料で超小型モビリティを定義している。

ちなみにAPEVの5つの活動とは、超小型モビリティの他に、EVコンバージョン、EVビジネス情報、地域コンソーシアム、EVモータースポーツを含む。すべて委員会を設置している。APEVがこれまで力を入れてきた活動はコンバージョン事業である。これは従来の内燃エンジン車のボディを再利用し、EVに転換する作業である。これまで、ドイツやニュージーランド、オーストラリア、中国、台湾、フィリピンなどとも連携してきた。海外との連携活動で、米国のTesla Motorsにも訪問した。

今回のデザインコンテストの概念は、基本となる共通プラットフォームを作り、その上に載せるボディを学生がデザインするというもの。このプラットフォーム戦略は、Teslaの基本的な企業戦略(本連載の第40回を参照)と同じだ。筆者は、Teslaとの何らかのコラボレーションを行うつもりかどうか、あるいはすでにしているのか、について福武会長に聞いてみたが、APEVとして、Teslaとは良い関係を築きたい、と答えただけにとどまった。

福武会長は、「共通プラットフォームを作り、コストを下げることは重要だ。大手メーカーなら独自デザインのクルマであっても量産効果でコストを下げられるが、我々のような中小のコンソーシアムは共通プラットフォームを作ることは特に有効。デザイン的には上屋をデザインすることで国際的には南国バージョンのEVを作ることも可能で、面白い」と答えているほか、内燃エンジン車ではできないEVならではの手法を考えるべきだとも述べている。