富士通がカーエレクトロニクスのソリューションビジネスに参入することを富士通フォーラムにおいて宣言した。これまでも、子会社の富士通テンや富士通セミコンダクター、いすゞ自動車との合弁であるトランストロン、FDKなどがそれぞれカーステレオや半導体、ECUなどを製造、自動車メーカーやティア1メーカーに供給してきた。今回、富士通本体がそれらのクルマ用製品を顧客にソリューション提案することになった。

図1 富士通グループが持つ部品を搭載した電気自動車

富士通にとってクルマは動く情報通信端末およびシステムになってきたからだ。コンピュータと通信をコアコンピタンスとするIT企業としては、クルマがIT化する様を見て、もはや手をこまねいていられないと判断した。さらに電気自動車(EV)に欠かせないクラウドコンピューティングも追い風になる。同社執行役員副社長の佐相秀幸氏が陣頭指揮をとり推進しているという。

クルマというシステムは、この連載で様々なものを紹介してきたように、メカトロニクスからエレクトロニクスへと急速に変化しつつある。ECUで制御すれば機械では実現できなかった機能、例えばより安全にするための死角をなくす技術、衝突しても死なないようなエアバッグ、パワーステアリング、急ブレーキによる前のめりを防ぐサスペンション制御、衝突防止、位置を知らせるカーナビゲーションなどさまざまな安全・快適な機能ができるようになる。もはやこの流れは誰にも止められない。

図2 後部に搭載した、電源と充電器、リチウムイオンキャパシタなど

富士通フォーラムでは、情報端末だけではなく、EV制御インバータ、ドライバであることを認証するIDとしての静脈センサ、充電器、パワーリレー、リチウムキャパシタ、電源(DC-DCコンバータ)など、クルマに関する様々なシステムを設計・製造できることを示し、それらをまとめてソリューション提供できることをアピールしていた(図2)。

図1のクルマは市販の商用車(ダイハツのタント)を改造し、富士通グループが設計・製造できるECUやエレクトロニクス回路と部品を載せたもの。エンジンにはモータとそれを駆動するインバータ、モータ制御するためのマイコンを使う。バッテリ残量をはじめとする状態のデータをセンターへ送る訳だが、M2M(machine-to-machine)通信モジュールから3Gネットワークを経由してセンターへ送る。データセンターはクラウドコンピュータに相当する。現実に、日産自動車のEV「リーフ」は、NTTドコモのM2Mモジュールを使い、日産のデータセンターにデータを送っている。EVになれば、データセンターにデータを送ることは欠かせなくなる。

今回の展示で目新しいものは、4つのカメラと、クルマのグラフィックス機能を強化したSoC製品「MB86R11/12」を使い作製した360度画像合成システムだ(図3)。このチップはARM Cortex-A9をCPUとして使い、2D/3Dのグラフィックス描画機能を持ち、1ポート1280×720画素まで処理できインタレース/プログレッシブ変換機能も持つビデオ入力ポートを4つ持っている。前後左右の映像を4台のカメラで取り込み、それぞれの映像を合成して、360パノラマ映像をディスプレイに出力する。この映像取り込みと合成にこのチップが能力を発揮する。サラウンドビューをこのチップと4台のカメラで実現でき、死角は全く存在しない。幼児を誤って轢いてしまうという痛ましい事故は激減するはずだ。

図3 前後左右の4つのカメラからの映像を合成し表示する周辺画像装置

富士通は、このサラウンドビュー機能を実現するための基本回路構成の内、MB86R11組み込み基板をはじめOS(eT-Kernel)や周辺機能ドライバやミドルウェア、モニタオーサリングツール、一部のアプリケーションソフトまでも提供する。自動車メーカーがカスタマイズしたいハードウェアとドライバ、アプリケーション以外は全て提供する。

クラウドコンピューティングはEV時代には不可欠になることを同社は知っている。リーフは、自動車と日産が築いているデータセンターと絶えず通信している。クルマの電池残量の確認と、充電ステーション情報の提供が自動車メーカーにとっては「ガス欠」させないために必須である。富士通は得意なクラウド技術を利用して、今後の実験データを保存している。例えば、電池の劣化を緩和するためのリチウムキャパシタ併用システムについての実験にクラウドを利用する。FDKが製造しているリチウムキャパシタを回生ブレーキの充電や加速に使えば、バッテリとキャパシタから電流を高速に供給できる。リチウムキャパシタは電流を急速に立ち上げられるが、次第に減少していく。リチウムイオンバッテリは立ち上がりがゆっくりとしているが、動作電流をじわじわと増大できる。これらの良いところだけ採れば電流は高速にしかも十分な大電流を供給できるようになる。

この他、EV用のモータ制御モジュールも展示していた(図4上)。これはEV用のIGBTトランジスタインバータ開発ボードと、そのパワートランジスタを制御するためのマイコンを搭載している。また、同ボードを使った制御モジュールも試作している(図4下)。

図4 EV用モータ制御開発ボード(上)と制御モジュール(下)

なお同社は、「人とクルマのテクノロジー展」においてもEVを動かすデモを行っていた(図5)。ここでは富士通フォーラムで展示した改造車よりも小さなEVであったが、モータを回転させていた。しかもリチウムイオンバッテリとリチウムイオンキャパシタを併用することで高速応答が可能であることも示した。

図5 「人とクルマのテクノロジー展」で見せたEVデモ

今回は100Mbpsイーサネットのデモには間に合わなかったが、100Mbpsの通信システムとそれを応用する新しいクルマのシステムも検討したいという。クルマビジネスにおける富士通のプレゼンスは高まりそうだ。