三菱電機がSiCインバータ内蔵モータシステムの開発を発表したが、インホイールモータカーへの応用を狙ったものといえそうだ。モータと車輪が一体化したインホイールモータカーはトランスミッション系の機械部品がない分、機械的なロスが少なく、EV(電気自動車)としての航続距離が長くなるという利点がある。今回、三菱電機が開発した、SiCインバータ一体型モータはインホイールモータカーにうってつけといえる。

三菱電機が開発したSiC FETは、シリコン(Si)のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と比べて、高速スイッチングが可能、直流のロスが少ない、といったメリットがある。SiCはSiよりも10倍高い絶縁耐圧を持つため、Siと同じ耐圧を得るのに10倍も電気伝導度を高くドーピングすることができる。このため直流のロスは少ない。加えて、多数キャリヤデバイスのFETは、少数キャリヤも使うバイポーラトランジス(IGBT)と違って少数キャリヤ蓄積時間がないため高速動作が可能だ。

これまで三菱電機は、モータとインバータは一体化していなかった。しかし数十Aも流すモータとインバータを別々にしておけば、電磁ノイズの影響が大きくなり回路が誤動作しやすくなる。また、配線が短くなることでロスが減り効率が上がる。

ただ、モータとインバータを一体化した試みは今回が初めてではない。2011年9月に米国の計測器メーカーTektronixが開催したセミナーで、半導体メーカーのロームが安川電機と共同でローム製のSiC MOSFETを搭載したインバータボードをモータ内に組み込んだ実験を明らかにした。この時はインバータをモータに組み込むことで大電流によるノイズの影響を低く抑えられるとしている

今回、三菱電機では試作したSiCインバータを組み込んだモータにより、その体積は別々の場合と比べ半減したという。インバータのプリント基板はSiCの採用によって部品点数が半減した。基板そのものは特に耐熱性の製品は使っていない。

モータ自身の鉄心構造を市販のシミュレーションツールを使って高温中での磁化を解析したところ、磁気飽和が見られたため、鉄心の長さや幅を変え、最適化した。これにより、高温動作時でも磁石の鉄心が磁化飽和せず、モータの効率が5%上がったという。磁石(強磁性体)は一般に温度特性を持ち、ある転移点(キュリー点)を超えると磁性が消失する。このため、レアアース元素などを添加して温度依存性を小さくするが、クルマのような高温の環境ではレアアースの添加は不可欠だという。しかし、鉄心の構造を最適化したことでレアアースの使用量を減らしたとしている。この磁石の実使用での最大温度は150℃である。

インバータ基板を搭載したモータの出力は70kWで、三菱自動車の電気自動車iMiEVの46kWよりも大きい。インバータでモータを駆動すると発熱するため、この一体化モータは水冷を利用している。水の入口を作り、まずインバータを冷却、次にモータを冷やすという経路を通り、出口へ流れるようになっている(図1)。

SiCインバータ基板を内蔵した三菱電機の70kWモータ

三菱電機は、このモータの走行パターン特性を解析するツールも作成しており、模擬運転ができる。図2のビデオは、モータの回転速度の上昇と、ダッシュボードのメータとが連動している様子を確認している。

動画
モータの回転速度を走行速度に対応させる模擬運転を解析する(wmv形式 2.8MB 15秒)

この一体化モータをインホイールモータカーに利用すると、最低4個必要になり、その出力は280kWにもなり、iMiEVよりも6倍もの出力となる。ただし、水冷の場合には水の流路設計が必要になり、その分スペースが必要となる。空冷は可能だろうか。三菱電機は70kW級のモータでは空冷は無理だろうとみている。

実用化にはもっとモータの小型化が必要で、あと5年程度かかると見ている。ただ、5年後にはSiC MOSFETの性能が上がり、電流容量が増えるようになり、MOSFETの効率が上がると、冷却を見直す必要が出てこよう。