クルマのインテリアデザインに大きな革命が訪れるかもしれない。クルマ内部のインテリアデザインに、「光」が使えるとしたら、デザイナーはこれまでとは違う発想するだろう。それも点光源ではない。幅10cm、長さ1mの細長いフレキシブルな帯状テープ全体が光るのである。

7月上旬、クルマやバイクのデザインをはじめ、日傘、椅子などさまざまなアイテムのデザインを手がけるZnug Design(ツナグデザイン)創立5周年パーティが開かれ、さまざまな工業デザイナーが集まった。Znug代表取締役の根津孝太氏が創立当時から手掛けてきたジェリーフィッシュ(くらげ)と名付けた光る椅子には内部に水を封入してあり、椅子を手で叩くと発光ダイオードが光り、水が作る幾重にもなる光のリングが揺れるという楽しいグッズである。

光とインテリアデザインは極めて面白い組み合わせとなる。パーティにはボール状の半導体太陽電池を生産している京セミの方も参加していた。席上で、直列に十数個つないだ太陽電池セルにLEDを接続し、その基板を360度隠さない限りいつでもLEDが光るというデモ基板を見せてもらった。これもやはりインテリアデザインとしても使えるのではないかとの思いから、パーティに参加した工業デザイナーの注目を集めていた。

さて、クルマの内部を光らせようとすれば、ランプを付けるしかなかったこれまでのクルマに、光るフレキシブルテープをドライバの視野の邪魔になりにくいように配置しようという動きがある。例えば、光るフレキシブルテープは、足下の暗い場所だけを照らすことができる。あるいは後部座席の人の手元だけを薄ぼんやりと光らせる、といった応用ができる。運転席側でも、足元やドア下部など視界に入りにくい場所に配置することも可能だ。

フレキシブルな有機EL照明

こういった応用こそ、プラスチックのようなフレキシブル基板上に作る有機ELの有力な応用分野になる。プラスチックエレクトロニクス、有機エレクトロニクスあるいはプリンテッドエレクトロニクスなどとも呼ばれる、有機基板を利用したトランジスタや発光ダイオードが試作段階だが、開発されつつある。

有機ELの先進国である英国ではプラスチックエレクトロニクスの開発を政府の肝いりで進めており、英国全土に5カ所の研究拠点(Centre of Excellence:COE)を設けている。このうちの4カ所が大学内に設けた施設を利用するが、1カ所だけは政府が組織化した。このPETEC(Printable Electronics Technology Centre)は、北東イングランドの田舎町セッジフィールド(Sedgefield)に設立された。プラスチックエレクトロニクスの量産設備であるロールツーロール(R2R)を設置できる広い場所を求め、この場所が選ばれた。

このPETECには、R2Rマシンだけではなく、薄膜形成のスパッタリング、エッチング、リソグラフィ、プリンティングなど半導体を作れるほどのクリーンルームを持ち、一種のインキュベーションセンターとしても機能する。基板となるプラスチックのポリエステルフィルムは耐湿性を向上させるためにバリア層が欠かせない。このためのALD装置も持っている。例えば、ポリエステル基板の上にALDで固いSiN膜を堆積しその上に有機ELデバイスを設ける。

生まれたばかりのベンチャー企業のPolyphotonixはPETECの設備を使い、有機EL照明の商品化を目指している。この施設を利用するためのコンペに勝ち、政府から6億円を獲得、ビジネスリスクを下げられるとして、商品化に向けたビジネス開発に力を入れている。曲げられるプラスチックの上に有機EL材料を構成した、フレキシブルなディスプレイの最も実用化が近い応用と見られるのがこの有機EL照明だ。

PolyphotonixのJanos Veres CTO(最高技術責任者)は、有機ELの応用を「建築物と、自動車のインテリア、そして広告媒体」とみている。クルマの内部では、天井やドアなどが曲線を描いているため、フレキシブルなプラスチックの有機ELがまさにうってつけだとしている。クルマの内装の曲線に沿って光らせることができるからだ。従来のランプや蛍光灯、LEDでは一様な光を帯状に発することは難しかったが、フレキシブル有機ELだといとも簡単だ。ここに有機ELならではの応用があるといえる。

光る衣服

光る屏風

光るテーブル

産業界から人材が続々集結

PETECでは、有機ELを使った衣服やテーブル、屏風などを試作している。ただし、単なる研究所には留まらない。というのは、プラスチックエレクトロニクスが新しい製造技術分野だと認識し、まるでシリコンバレーに人が集まるように、かつて半導体、エレクトロニクスメーカー、材料メーカーで商品化開発の仕事をしてきたエンジニア、マーケティング担当者が集まってきているからだ。米国のFPGAメーカーAtmel、日本の富士通ヨーロッパ、ドイツのSiemens、化学メーカー大手のドイツのMerck、韓国のSamsung Electronicsなど経験豊かな人材が商品化に向けて続々と集まっている。

このPETECは、国立の研究所という枠をはみ出そうとしている。政府の資金を毎年あてにするようではプロジェクトがいずれ行き詰ってしまうからだ。このため企業とのコントラクトによる共同研究や、材料形成技術のライセンシングなどの収入も見込んでいる。企業との共同研究の成果を生み出すためにも商品化に向けたビジネスを強力に推進している。