2010年5月下旬、トヨタ自動車は米国の電気自動車ベンチャー「Tesla Motors」と電気自動車(EV)の開発で提携した。この狙いの背景は何か。Teslaは、パソコンに使うリチウムイオン電池を数百個並べ、電気自動車として走らせたことで一躍有名になったカリフォルニア州シリコンバレー(パロアルト)に本社を置く電気自動車ベンチャーである。

今回の提携は、電気自動車そのものと、部品の開発、生産システム、技術に関する業務提携である。トヨタはTeslaに対して総額5,000万ドル(約45億円)を出資し、Teslaの一株主となる。

トヨタはこれまでハイブリッド車に注力してきた。従来のハイブリッド車が使っているニッケル水素電池に代わり、リチウムイオン電池を搭載し、これまでのガソリンエンジン主体のハイブリッド車から電気モーター主体のプラグインハイブリッド車の開発へと力を入れてきた。2010年5月中旬にパシフィコ横浜で開かれた「人とくるまのテクノロジー展2010」においてもプラグインハイブリッドのプリウスを展示した。

プラグインハイブリッドのプリウスに搭載されたリチウムイオン電池

だからといってトヨタは電気自動車開発を捨てているわけではない。トヨタは2012年に電気自動車を市場に送る計画だ、と今回の提携によるプレスリリースは伝えている。

電気自動車に集中するTeslaは2010年1月に欧米で1,000台以上の電気自動車をしたことを発表している。一回の充電で245マイル(392km)、時速0から60マイル(96km)に達する時間が3.9秒という加速性の良さを売り物にしている。モーターは内燃エンジンよりもトルクが大きく、加速性能がガソリン車よりも高い。同社のスポーツカー「Tesla Roadster(テスラ ロードスター)」は、以下のような仕様を持つ。

座席 2席
最高速度 時速125マイル(200km)
走行距離 245マイル(392km)(1回充電にて)
電池寿命 7年もしくは10万回充放電
充電時間 3.5時間(Tesla仕様の充電器にて240V、70A)
表1.主な仕様

トヨタの豊田章男社長によると、「このパートナーシップを通じて、Teslaのようなベンチャー企業から、チャレンジ精神と素早い意思決定、そしてTeslaが持つフレキシビリティを学びたい」とコメントした。Teslaを通じて、数十年前のトヨタのベンチャースピリットを全従業員が思い起こしてほしい、と述べている。

モーター 375VのAC駆動モーター、周波数可変
出力 288馬力(215kW)、5000~6000rpmのとき
トルク 370Nm(基本)、400Nm(スポーツタイプ)
回転数 最大14,000rpm
加速性 3.9秒(基本)、3.7秒(スポーツタイプ)(0~時速60マイル)
電池数 6,831個
表2.主な性能・技術

一方、TeslaのCEO兼共同創業者であるElon Musk氏は、「トヨタは高い革新技術と高い品質、持続可能な車両作りを約束することをビジョンとして創業された企業だ。トヨタがTeslaをパートナーとして提携先に選んでくれたことは非常に誇りに思う。トヨタの伝統的な技術、製造技術、生産技術を学び恩恵を受けることを楽しみにしている」と述べた。

電気自動車の心臓部となるリチウムイオン電池に関しては、トヨタとパナソニックとの合弁であるパナソニックエナジーがニッケル水素電池の生産とともにリチウムイオンも開発している。しかし、まだ製品化していない。リチウムイオン電池の開発が進んでいるのか遅れているのか明らかではないが、電気自動車への搭載の話は一切ベールに包まれている。今回の提携では、パナソニックの開発する電池をTeslaのクルマに使うことには触れていない。

だが、Teslaはやはり、優れたバッテリが欲しい。このためトヨタ系のパナソニック エナジー社に接触してきた。TeslaのCTOであるJB Straubel氏は2010年4月22日に、パナソニック エナジー社を訪問、同社の野口直人社長から、住之江にあるパナソニックのリチウムイオン電池の新工場で生産された最初の電池をプレゼントされた。パナソニック エナジー社は容量3.1Ahの18650タイプ(円筒)のリチウムイオン電池を年間3億セル生産する計画である。Straubel氏は「パナソニックの最先端電池と、Teslaのバッテリパック技術を組み合わせ、エネルギー密度が世界最高のバッテリパックを生産していく」と述べている。

また、その前日には、Teslaは欧米に続きアジアで初めての輸出国となる日本に向けてカリフォルニアから出荷したと発表した。日本仕様の右ハンドルのテスラ ロードスターは2010年5月に横浜に到着、日本の特定ユーザーに届けることになった。ロードスターは自動化ラインではなく手作りによるクルマであり、カーボンファイバーの車体を利用し軽量化を図っている。同社のCEOであるElon Musk氏は、「クルマに対する熱意と強い想い、さらに先端技術を持つ日本市場にロードスターを出荷するのはごく自然。(これに応えるための)テスラ ロードスターは、妥協しないクルマ、すなわち性能とデザイン、技術のどれも犠牲にしないクルマだ」と日本市場に向いたクルマであることを主張する。

Teslaへの主な出資社にはDaimler、Valor Equity Partners、Technology Partners、DFJ(Draper Fisher Jurvetson)などがいる。Daimlerは言うまでもなく自動車メーカーであるが、残りの出資社はファンドが多い。個人出資者で異色な人物が一人いる。Googleの創業者であるLawrence Edward "Larry" Page(ラリー・ペイジ)氏だ。Googleは、米国で進められているスマートグリッドを強力に推進している。スマートグリッドのシステムから見ると電気自動車はその部品の1つになる。電気自動車はスマートグリッドのもとではIT技術と電池技術がそのカギを握る。電気自動車とスマートグリッド、ITはこれから切っても切れない仲間になる可能性が高い。