電気自動車(EV)のインパクトは極めて大きい。クルマのデザインの自由度が増す上に、誰でも作れるようになり、グローバルな競争は激しくなる。規制によって市場参入障壁を設けている国の企業は国際競争に負けてしまうことになる。これまでクルマを設計製造してこなかった台湾でさえ、電気自動車への参入企業が現れた。では、どこで差別化を図るか。デザインは実は有力な差別化要因になりうる。電気自動車に適したデザインが生まれてくる。そうした意味で今回は電気自動車のデザインについて考察したい。

電気自動車のもっとも大きなインパクトは、デザインの自由度が最大限に増えるからだとデザイナーは語る。従来の内燃エンジンで走るクルマは、大きく重いエンジンという部品を設置する場所がおおよそ決まっており、設置した後ではデザインの自由度は下がってしまう。車体の重量バランス、収容場所などが決まってしまうからだ。

しかし、電気自動車、それも1つの車輪を1つのモーターが動かす、いわゆるインホイール・モーター方式だと、エンジンのような大きく重い部品は電池しかない。しかし電池は、設置する場所には限定されない。バッテリは確かに重くてかさばる部品ではあるが、ブロック玩具のようにバラバラにすることもブロックに束ねることも、自由に組み合わせることができる。例えば平坦な形状にして床一面に敷き詰めることも可能だ。

リチウムイオン電池1個のセルは内部の正負極材料などによって多少の違いはあるが、3.0~4V程度しか出力しない。このため電気自動車ではセルを直列接続し、電圧を稼ぐ。おおよそ100セルくらい直列につなぎ、340~360V程度まで昇圧する。電力分野では電圧は高ければ高いほど良い。細い電線を使えるからだ。逆に電圧を上げずに電力を稼ごうとすると大きな電流を流さなければならなくなり、電線を太くせざるを得ない。電線の重量が増えてしまうため、これは許されない。たくさんのセルを直列につなぐ自動車のバッテリではつなぎ方は比較的自由であり、セルを平面に並べることも縦に積み上げることも自由にできる。

電気自動車の自由度を広げるもう1つの要因は、原理的に電池とモーターだけで走るため、ガソリンのような液体を溜めるタンクが要らないこと。ガソリンタンクはクルマの左右どちらかの後部に収容している。このスペースも電気自動車では要らなくなる。

クルマを再定義する

ただし、電気自動車における最大の問題は、走行距離が短いことである。電池のエネルギー容量が内燃エンジンほど大きくはないためだ。これまでの電池の実力では電池の体積にもよるが、クルマの乗り心地などを考え、内燃エンジン程度の大きさだと1回の充電で100~160km程度しか走らない。もちろん、乗り心地を無視して、山のようにバッテリを積めば500kmくらいは走れるが、これでは売れるクルマにはならない。現実に日本EVクラブ/三洋電機のチームが東京-大阪間を走ったギネス記録を最近打ち立てた

電気自動車では少しでも電池を消耗させないことが求められる。ヘッドライトやテールライトをLEDにすることは不可欠だ。パワーウィンドウやエアコンなどを動かすと電池は激しく消耗し、走行距離はさらに短くなる。

znug design(ツナグデザイン)の代表を務めるデザイナー/ビジョンクリエータ(トヨタでの代表作はコンセプト開発リーダーを務めた愛・地球博の i-unit。現在は自動車をはじめとする工業製品のコンセプト企画とデザインを手がけながらミラノサローネや100%デザインなどで作品を発表している)

となると、クルマというものを再定義しなくてはならない。「人間の行動を考えながらその拡張で再定義しようということになる」、とクルマや特殊機械のデザインを手がけるデザイナーの根津孝太氏は言う。2005年の愛知万博当時、トヨタ自動車に在籍し、一人乗りのコンセプトカーi-unitをデザインした根津氏は、今の電池の実力では、「電気自動車の姿は、セグウェイらしいものから出てくるだろう。そのようなパーソナルモビリティと軽自動車との間があまりにも離れているため、この間をまるでグラデーションのように埋めることになるのではないか」と未来を見つめる。

現実の電気自動車として、三菱自動車の「i-MiEV」や富士重工業の「スバル プラグイン ステラ」が商用化されており、日産自動車からも「リーフ」が発表されたが、"リーフ"のデザインには少しがっかりしたと根津氏は語る。電気自動車ならではのデザインにはなっていなかったからだ。リーフの内部を見てもっといろいろな自由なデザインができるなと感じたとしている。

トヨタが愛知万博で発表した一人乗りのコンセプトカー「i-unit」(出所:トヨタ自動車Webサイト)

電気自動車らしさを発揮するのは、やはりインホイール・モーター方式を採用する場合であろう。インホイール・モーターは走行距離を1.5倍程度伸ばすことができる。モーターの動力を車輪に直に伝えることができるからだ。従来のクルマだとエンジンからトランスミッションを通して車輪までの伝達部分に機械的なロスを伴う。

クルマを再定義 - 日本人の文化観/身体感覚がキーワード

インホイール・モーターを前提にした電気自動車こそが本命技術であり、「X-by-wire技術も使える」(根津氏)。クルマのレイアウトも含むすべてのデザインの自由度が増し、「パーソナルモビリティと複数人乗車の乗用車との溝を埋めるのも電気自動車ならではの乗り物となる」と根津氏は述べる。

電気自動車は技術も含めた「デザイン」がこれから求められることになる。ただ単にモーターと電池を組み合わせれば誰でも作れる電気自動車は、「どこをブラックボックスにするか」(同氏)が技術的な差別化になり、「デザインが差別化の最後の砦になるかもしれない」と根津氏は見る。

ではどのようなデザインが売れるデザインとなるか。「日本人の文化観が生きるかもしれない。もったいないという気持ちを大事にし、長持ちさせるといった美学があるはず」と同氏は見る。またソニーのかつてのロボット「AIBO」のように効率や快適だけではない楽しさを表現したいとも言う。「楽しさには身体感覚が必要なのかもしれない」(同氏)として、任天堂のゲーム機「Wii」がまさに体感を楽しむゲームであり、万人に受け入れられたことを指摘する。

根津氏は、「デザインとは情報整理そのものだ」と語る。雑念と見えるところに2本の補助線を引いて情報をクリアに見せることで、メディアの情報の切り口があるが、デザインもこれと同じだと根津氏は語る。iPhoneがヒットしたデザインはインタフェースをシンプルにしたものだと見る。結局、クルマのデザインは人間の行動と密接に結びつくこと、すなわち人間の行為を実現させるオブジェクトという考えでクルマのデザインを考えることがキーワードになりそうだ。

根津氏とトヨタ自動車の下請けで自動車部品設計などを請け負う原田車両設計が、自社の有するデジタル成型技術である「粉体造形」を活用して製作した灯ろう。歯車は別々に作り組み込んだわけではなく、最初から一体成形として作られている。こうした技術は自動車部品開発などに使われてきたが、2008年のトヨタショック以降、自動車以外の使い道を模索した中で、技術力のアピールとして製作された
こちらは実際に動いている様子(wmv形式 1.36MB 6秒)