カーエレクトロニクスの半導体市場ではFreescale Semiconductorが世界で最も市場シェアが大きいと言われている。米国市場ではDelphi、欧州ではBosch、日本ではデンソーがそれぞれ代表的なティア1メーカーだ。Freescaleによると、米国だけではなく欧州でも売り上げは同程度にあるという。

Freescaleの次は欧州ドイツのInfineon Technologies。ここはSiemensの子会社から出発した半導体メーカーであるから交通応用には強い。ドイツにはDaimler、Bayerische Motoren Werke(BMW)、Volkswagen、Audi、Porscheなどブランド力のある自動車メーカーが多い。第3位はSTMicroelectronicsと言われているが、ベルギーを本社とする伊仏合弁のこの半導体メーカーもまたフランスのCitroen、Peugeot、Renault、イタリアのFerrariやAlfa Romeo、Fiatなどの自動車メーカーに売り込みやすい。日本の半導体メーカーのルネサス テクノロジは第4位と言われている。

第1位のFreescaleが2008年9月10日に開催したFTF Japan 2008で発表したのは、単なる新製品ではない。これからのカーエレクトロニクスの1つの方向を示唆する、"より安全に"というテーマを追求するというメッセージだ。ここではそのFTFで発表した新製品の位置づけを解説し、より安全な方向付けを確認したい。

Freescaleが発表した半導体デバイスは2種類ある。1つはエアバッグシステムの増加に対応するインタフェースICであり、もう1つは低い加速度を測定検出するセンサである。前者は、エアバッグがこれまでの運転席、助手席だけではなく、ドアの側面のサイドやドアの上側のカーテンエアバッグ、さらには膝をカバーするニーエアバッグ、後部座席の後ろからのエアバッグなど、エアバッグの数が急増することに対応する。後者は横滑り防止に使う。

インタフェースICは、メインのECU(電子制御ユニット)からすべてのエアバッグを制御するのに使う。マイクロコントローラですべてのエアバッグを制御する場合、それぞれのエアバッグシステムとやりとりするのに共通のインタフェースが必要だ。同社は、「DSI(Distributed Systems Interface)」バス規格の標準化を米TRWと共同で進めてきた。今回発表したDSIコントロールICがあると1個のマイコンですべてのエアバッグを動かすことができる。

エアバッグを配備したクルマの写真

しかも、多数のエアバッグを制御するのにワイヤハーネスが多くなりすぎてもいけない。自動車の重量が増すからだ。配線はできるだけ2本で済ませたい。そのためにできるだけ直列接続のデイジーチェーンでつなぎたい。このICを使えば少ない配線数でしっかりした通信のやり取り(全2重)が可能になる。全2重とは、送信と受信を電話のように同時にできることで、これまでの半2重は昔のトランシーバのように時間によって送信のみ受信のみを分けて通信していた。送受信の確認が煩わしい。今回は全2重で通信できる。

今回のICチップは、各エアバッグを4ビットのアドレッシングでアクセスできるため理論上は15個(2の4乗)まで接続できるが、実質上はバス1本当たり最大4個まで接続できる。この数は、エアバッグの加速度センサにポーリング(問い合わせ)をかけてセンサからのレスポンスを得るまでにかかる時間で決まる。センサとこのICを直列接続していると4個が最大個数だとFreescaleは言う。これ以上つなぐとレスポンス時間が遅すぎてエアバッグの開閉に間に合わなくなってしまう恐れが出てくる。

このICは2種類あり、親機としてのMC33781、各エアバッグと接続する子機としてのMC33784がある。このDSIインタフェースICは下図のように配置して使う。

クルマの中に配置するIC

MC33781には、4本の独立した差動DSIインタフェースを持ち、ホストのマイコンとは標準的なSPIインタフェースを通してやり取りする。自動車のようなノイズの多い環境では、エラー検出訂正回路が必要となるが、ここではCRC(cyclic redundancy check)方式を使い、このチップ上ではエラーは検出のみで訂正まではしない。ホストのマイコン側で検出したビットを捨てるか訂正をする。

加えて、クロックにはスペクトラム拡散技術を使ってノイズを減らし、ハーネスへのシールドを減らしている。差動信号はバランス出力にしてコモンモードノイズを低減している。ツイステッドペアで実装できる。

子機側のMC33784では、センサからの信号を拾い、デジタル信号に変換する。10ビットのA/Dコンバータを2個搭載し、2個のセンサからの信号を変換できる。5V電源を搭載しており、加速度センサや圧力センサ、乗員検知センサなど各センサをドライブできる。CRCエラー検出回路も搭載している。加えて、親機のMC33781からの入力と、もう1つの子機MC33784へのバスも持っている。

もう1つの新製品である低加速度センサは、5G以下の加速度を検出するわけだが、これは衝突するほどの大きな加速度ではなく、車のハンドルがとられるような横滑りを起こす程度の加速度を検出する。XYの2方向のみのセンサであるが、低い加速度だけに高い精度が要求される。

MMA6701EGは最大±5Gまで、MMA6700EGは最大±3.5Gまでの加速度を検出する。MEMSによる加速度センサとアンプ、11ビットA/Dコンバータ、DSPなどを集積している。DSPはカットオフ周波数をフレキシブルに変えられるローパスフィルタの役割を果たすために集積している。これは車の振動を除去するためのローパスフィルタである。振動を除去した後もデジタル出力が必要なためDSPを用いた。MEMSにより固定部と可動部を作り、両者の間の静電容量の変化により加速度を検出する。11ビットのA/Dコンバータによるデジタル出力は、MMA6701EGが4.91mG/デジット、MMA6700EGは3.43mG/デジットと感度は高い。

横滑り防止では、クルマにかかる力とブレーキを連動させて、車両を安定な形に保つ。クルマにかかる力を検出するセンサは、この低加速度センサのほかに、車の回転を検出する角速度センサ、ステアリングホイールセンサ、スピードセンサなどが必要。これらのデータを横滑り防止システムのECUに送り、ブレーキ制御、トラクション制御、エンジン制御と連動させる。2012年度までに米国内で販売されるすべてのクルマに搭載が義務付けられるとしている。