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人生におけるゴールは様々であるが、「結婚」はその一つに当てはまるのではないだろうか。見知らぬ男女が出会い、恋に落ち、生涯の愛を誓う。何ともロマンティックなイベントであるが、このほど米国の研究で既婚者はある病気からの生存率が高いことが明らかになった。

既婚者のがん死亡率は1~3割低く、転移の可能性も低い

研究は、米国のダナファーバーがん研究所に所属するPaul Nguyen博士らを中心に行われた。米国の科学ニュースサイト「LiveScience」に論文の概略が掲載されているので、以下その内容を紹介する。

研究チームは2004年から2008年の間に、米国内でがんと診断された73万4,800人のデータを分析。それらの患者は肺、大腸、乳房、すい臓などの10種類のがんのうちのどれか一つにかかっていたという。そして、年齢や世帯収入、がんステージなど、患者の生存に影響を与えそうな要因を考慮し、その生存率を調べた。

その結果、既婚者は未婚者に比べて12~33%もがんによる死亡率が低下していることがわかった。特に頭頚部(head and neck)にがんを患っていた患者の延命効果が極めて高かったという。

また、既婚のがん患者の3年生存率は、未婚の場合と比べて、がんステージに関係なく約2割高く、がんが転移している割合は17%も低かったという。それはすなわち、がんが初期段階で見つかり、適切な処置が施されたことを示唆している。

既婚者が未婚者より多く持っているものとは?

研究は「既婚のがん患者が長生きできたのは、彼らがより多くの社会的支援を持っていたからではないだろうか。既婚者は診断を下される際の精神的労力を配偶者とシェアすることができ、それは不安や落胆を減らすことにつながる」とまとめており、「社会的支援」は結婚によって得られるメリットの一つであり、それこそが患者をがんから守ったものではないかと推測している。

Paul Nguyen博士も「友人や愛する人ががんにかかっている場合、あなたが彼(女)と一緒に医師を訪問してその診断を理解し、支援することで、その後の結果に大きな違いを生むでしょう」と話している。

また、興味深いことにこの"結婚による利点"は男性の方が顕著に見られることがわかった。研究者は「未婚の女性の方が、未婚の男性よりも友人や親戚、コミュニティから社会的支援を受けている可能性がある」ことをその理由に挙げる。他にも2011年のノルウェーの研究では、がん患者の未婚男性はがん患者の既婚男性よりも死亡率が高く、年がたつに連れて、両グループの差は広がっていくことが報告されている。

調査に携わったAyal Aizer博士は「どんな種類の社会的支援が最も有効なのか、例えば、グループによるコンサルティングなのか、個人によるコンサルティングなのか―を理解するために、より多くの研究が必要だ」とまとめている。

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自分に社会的支援を施してくれる相手とは……

厚労省が3月に、15~39歳を対象に実施した「若者の意識に関する調査」(n=3,133)によると、結婚の最大の利点としては「精神的な安らぎの場が得られる」(29.4%)が挙げられている。この調査結果からも、やはり結婚相手は一定レベル以上の社会的支援を行ってくれる存在になりうると言えそうだ。

一方で、Paul Nguyen博士らによる研究結果は、必ずしも結婚による健康上の利点を肯定するものではない。あくまでも「未婚のがん患者に社会的支援を施せば、彼らの健康に利益があるかもしれない」ということを示唆しているだけである。裏を返せば、社会的支援が得られるのであれば、その対象は配偶者かどうかは問わないというわけだ。

生き方が多様化している現代では、必ずしも結婚を選ぶ必要はないのかもしれない。本当に自分のことを思っていてくれさえいれば、配偶者であれ、恋人であれ、友人であれ、その形は関係ないのだろう。一つだけ確かなのは、「自分にはそういう存在がいる」と自信をもって言える人は、とても恵まれているということだ。