AI搭載のマーケティングツール

「自社・顧客ともに必要としていた」が開発のきっかけ

次世代型マーケティングプラットフォーム「B→Dash」の開発および提供、導入支援を手がけるフロムスクラッチは、2010年にデジタルマーケティング分野におけるコンサルティングを中心業務としてスタートした企業だ。当時は顧客から提供されるビッグデータを利用して分析し、コンサルティングを行うというサービスを提供してきた。それらの業務を通じて見えてきたクライアントの課題を製品化したのが「B→Dash」だという。

「当時はマーケティング課題を解決するツールがどこにもなく、多くのクライアントが不便な状況にありました。日本はもちろん、海外のツールもくまなく探しましたが、課題を正面から解決するツールがなかったので、自社開発を決断しました」と語るのは、フロムスクラッチ B→Dash Co. Research&Development-Unit 執行役員 CTOの井戸端洋彰氏だ。

フロムスクラッチ B→Dash Co. Research&Development-Unit 執行役員 CTO 井戸端洋彰氏

2014年10月のリリース以来、「B→Dash」の開発・導入支援に加え、人工知能を用いたマーケティングソリューション開発、マーケティングテクノロジー領域の基礎研究・開発と業務内容も拡大した。それまでは電話でアポイントをとって先方を訪ねるような営業方法をとっていたのも、「B→Dash」を扱うようになってからはMAを使った営業へと転換したという。

初めて持つ開発インフラとして実績と情報量でAWSを選択

フロムスクラッチのメインプロダクトである「B→Dash」は、AWS上で稼働している。新サービス開発にあたってAWSを選定したのは、オンプレミスやリースのサーバと比較した結果だという。

「それまで開発を行っていなかったので、そのためのインフラを持っていませんでした。そこで、B→Dashの開発にあたって、オンプレミス、リース、クラウドをスピードとコスト、そして機能という面で比較。ゼロから立ち上げるサービスにとって、クラウドの迅速さは魅力でした。また、コスト面も長期的に運用すると割高だとも聞きましたが、初期投資や持ち続けるコストを考えれば、クラウドなら最初は安価に使えることを評価しました」と井戸端氏は語る。

機能面も、オンプレミスサーバに自由度では劣るものの、一定のことは十分にできること、サーバへの機能の組み込みなどを自社でやる必要がないことなどに価値があると感じたという。また、不安視されがちなクラウドのセキュリティも、自社ですべてを見るよりは専門家に任せるほうが安心なのではないかと判断したとのことだ。

クラウドを利用すると決定してから、AWSへの絞り込みは早かった。当時はAWSの採用例も特別多いわけではなかったはずと振り返りながらも「調べて、導入例が真っ先に出てきたのはAWSであり、実績は十分だと感じました。また、リファレンスが多く、ユーザー会も充実しており、最新情報や新機能の使い方なども紹介してもらえるのがよいと思いました」と井戸端氏は語る。

大口案件受注やサービス急成長にもAWSなら素早く対応

「B→Dash」は2014年秋にサービスをスタートしたが、2015年冬にはすでに大きな案件を受注していたという。その後、毎月新規ユーザーを獲得しながら順調な成長を遂げている。

「人工知能ブームに合わせて、興味を持っていただいたようです。リリース直後にエキスポへ出展する時は類似サービスが見つからず、『マーケティングプラットフォーム』という言葉を引っさげて出展したのですが、半年後の展示会にはコンセプトをかぶせてくるかのように、類似のサービスがいくつか登場していました」と、マーケティングに対する需要が高まる時期にリリースできたことも伸びのきっかけだろうと井戸端氏は分析する。

既存顧客からの紹介や口コミ、事例記事を見た問い合わせなどもあり、サービスとして成長していく中では大口顧客も増え、サーバ負荷も高まった。

「サービス開始当初は10もなかったインスタンスが、今は200以上となっています。データも数TBへと膨らんでいます。もし、オンプレミスのシステムだったら、拡張は相当厳しかったでしょう。AWSなら簡単に拡張できるので、助かっています」と、井戸端氏はユーザーとしての実感を語る。

さらなる成長に向け、コミュニティ設立にサービス強化を予定

現在はB2B、B2Cを問わずに幅広い業界のユーザーを獲得している「B→Dash」だが、特に効果を得ることが可能なのはレコメンド機能が有効なECサイトを持っている企業だという。「取得・統合すべきデータはあるが、自社でそのデータ基盤を持つ余力はない」といった企業が「B→Dash」を利用しているようだ。

「利用企業の中には、ビッグデータを統合・活用していくことで、対象を絞り込んだ結果、案内メールの数が半減したにもかかわらず、反応は倍になったというお客さまもいらっしゃいます。設計は大変でしたが、こういうユーザーの声を直接聞くことができてうれしいですね」と井戸端氏。

井戸端氏によると、十分な効果を得るには、業務とシステムの両方の知識が必要であり、より細かなターゲティングを行う必要があるそうだ。大手ECサイトを持つ企業などはシステム部門と現場部門が互いにある程度の知識を持っていることもあり、打ち合わせに双方が同席してスムーズに進むことも多いが、企業によっては準備段階にかなり時間がかかるところもあるようだ。

そうした中、ユーザーに向けた今後の対応として、フロムスクラッチでは2つのことを考えているという。1つはユーザーコミュニティの強化だ。アプローチのヒントになるような情報を積極的に出して行きたいとしている。もう1つは大幅なサービス増強だ。

「サービス開始時から比べると機能がたくさん追加されているので、画面にわかりづらい部分が出てきています。そこで、UI/UXを刷新する予定です。また、サービス規模が今後も成長して行くことを想定して、対応力をより上げるためにアーキテクチャの刷新も予定しています」と井戸端氏。

また、従来はユーザーごとに業務データの加工などを行っていたが、これをある程度システム化しようという試みもある。企業によってデータの持ち方が違うために個別のシステム開発をしてきたが、多くのユーザーデータを扱う中で加工のポイントなどが見えてきたという。

「パターン化できる部分をシステム化することで、内部的な導入コストの削減や対応力の向上、お客さまにとっての導入スピードアップを目指します」と、井戸端氏は大きな動きを予定している「B→Dash」について力強く語った。

この大幅なサービス強化は、2017年春から夏にかけて実現する予定だ。これからも「B→Dash」はユーザーを増やし、成長を続けていくことだろう。そのサービスの成長に伴って増強されるシステムはAWSが支え、増えつづけるデータの格納にも力を発揮するはずだ。