祖父母世代に使ってもらうための「操作性」にこだわる

チカク 共同創業者 桑田健太氏

テレビを用いて、遠く離れたおじいちゃんやおばあちゃんとスマートフォンで孫を撮影した動画や写真を簡単に共有できるサービス「まごチャンネル」。

「核家族化が進む中、いかに人を近くするか、人の距離を近くする、知覚を促すというイメージからつけた社名です」と語るのは、共同創業者でソフトウェア開発責任者を務める桑田健太氏だ。

「まごチャンネル」を介して近づけるのは、離れて暮らす親世帯と子世帯だ。親世帯のテレビに専用ハードウェアを接続すると、子世帯側から送信した動画や写真がテレビで手軽に見ることができるようになる。親世帯側ではテレビのリモコンだけで操作が行え、あたかも「孫専用チャンネル」がテレビに加わったかのような使い心地で新しい動画や写真を楽しめるようになっている。

「操作の簡単さを追求しており、基本的には再生と停止のみで楽しめるようになっています。使い慣れた人ならば、古い写真を見返すことも可能です」と桑田氏。一般的なアルバム共有サービスによくあるようなタグづけによる分類や検索、コメントの添付といった機能はあえて提供していないという。

「孫と離れて暮らす50代から70代をターゲットとしていますが、この層はスマートフォンが使いこなせる人もいれば、フィーチャーフォンを使えない人もいる世代です。そのため、携帯電話の操作がわからない方でも手軽に使ってもらえるサービスを目指しました。また、スマートフォンは使えるけれど大画面で写真や動画を見たいという方にもニーズがあると考えています」と桑田氏は語る。

「まごチャンネル」のハードウェアとなるセットトップボックスは、デザインは同社が行い、製造を提携メーカーに依頼している。本体は子供が描く「家」のような形で、新着の写真や動画があると窓に明かりがともる仕掛けだ。

「家」の形をしたセットトップボックス。新しいデータが送られると窓に明かりがともる

「親世帯に置くハードウェアは子世帯のミニチュアをイメージしています。新着ランプをしっかり見てもらえるよう、棚などにしまわれないようなデザインを考えました。内部にはソラコムの回線が入っているので、HDMIケーブルでテレビと接続するだけです。記憶媒体も内蔵しています」と桑田氏。内蔵メモリは専用アプリで撮影した写真を毎日100枚送ると6年ほどでいっぱいになる計算で、将来はUSBでの拡張が可能な作りになっているという。

短期間で成功を目指すスタートアップに最適なAWS

この「まごチャンネル」のサービスを支えているIT基盤はAWS(Amazon Web Service)だ。「私は前職でSansanの個人向け名刺管理アプリであるEightを開発していたのですが、当時SansanではAWSを利用していました。私自身が管理に携わっていたわけではないのですが、親しみはありましたね」と桑田氏は語る。

実際の選定にあたっては他社のクラウドサービスとも比較を行ったが、小規模にスタートできることや情報量の多さなど、スタートアップ企業にとって有益なポイントが多いことでAWSに決定したという。

「他社のサービスは事例などを含めて情報が少ないと感じました。人手が多く、長期間かけて動くプロジェクトならいいのかもしれませんが、少人数で時間もなく失敗もできない、われわれのような企業にとっては情報量は重要です。AWSは他社のベストプラクティスなども公開されていますし、立ち上げのサポートも手厚く、初期コストも比較的安価で立ち上がりもリニアです。小規模にスタートできることを考えると、ベンチャーにとって使い勝手がよいサービスだと思います」と桑田氏は評価する。

「まごチャンネル」は2015年9月にクラウドファウンディングで先行受付を開始し、2016年4月に出荷を開始した。2016年9月にはグッドデザイン・ベスト100を受賞するなど、順調な成長を遂げている。こうした成長していくサービスにとって、スケールアップが容易なAWSは使いやすい。

「AWSなら、すぐに新しいサーバを作れますし、負荷が増えた時の対応も簡単です。私は学生時代にレンタルサーバ業者でアルバイトしていたのですが、当時、サーバを増やすという作業は大変でした。それに比べると、AWSの管理作業はとても楽ですね」と、桑田氏はビジネスが動き始めてからの使いやすさも高く評価した。

簡単さを追求しながらユーザーに応えるサービスへ

簡単な取り付けと操作感にこだわった「まごチャンネル」。もともとスマートフォンになじみのあるユーザーなどからは高機能化を望む声もあるというが、今のところ「簡単」という路線を崩す予定はなさそうだ。

「ハードウェアの不良があって交換することもあるのですが、そういう時にお叱りの言葉ではなく、喜びの言葉をいただくことがよくあります。『自分でも簡単に使えた』『これがなくては困る』といった言葉です。これからも、まずは手軽に体験してもらえるようにしていきたいですね」と桑田氏。

離れて暮らす孫の姿を見ることがコンセプトのサービスだが、実際にはその使い方の簡単さから曾孫の姿を楽しんでいるユーザーもいるという。

もちろん、機能拡張の予定がないわけではない。使い方を複雑にするのではなく、よりユーザーによりそった機能を追加していく予定だ。機能追加の要望が多いのは、送る側となる子世帯のほうのようだ。例えば、父方と母方の両方の祖父母の家にまごチャンネルを設置して、写真を送り分けたいといった要望があるという。

「ユーザーからの要望はいろいろ聞いています。データの動きを見ていると、平日にとりためたデータを週末にまとめて送っている方が多いようですが、中には2カ月で2000枚送った方もいます。使い方も人それぞれなので、要望を見極めて対応したいですね」と桑田氏は語った。

成長を続けるチカクで活動している桑田氏に、スタートアップで働くことや起業することについて聞いたところ「楽しいけれど大変」という言葉が笑顔で返ってきた。「やりたいことのない人がやっても意味のないことですね。やりたいことがあるからこそやれる。大変だけど、楽しいですよ」と、桑田氏はスタートアップで働く醍醐味を語った。