ホンダは2017年6月初めに「Honda Meeting 2017」を栃木研究所で開催し、2020年から2025年ごろに実用化する自動運転のコンセプトを明らかにした。その一部の機能をデモンストレーションで体験することができたのでレポートする。

ホンダの自動運転を体験(画像提供:ホンダ)

レベル4は2025年ごろまでの実用化を目指す

発表した技術は2つある。その1つはAIを使う一般道路のレベル4だ。紹介すると、この技術は2025年ごろまでに実用化を目指しているが、一般道路を想定した研究所の連絡路でデモ走行が体験できた。このデモ走行は、あえて高度な詳細地図を使わずに、カメラの画像情報だけでどこまで走ることができるのかという研究課題の実証だった。

カメラで得られたデータは、深層学習(ディープラーニング)で正しく認識する。車線がない状態で、どこまでが道路の幅なのかを認識する研究だ。高速道路と違って、歩行者や自転車などのさまざまなターゲットが現れるので、検知するデータは膨大な量となる。

ここで使われるコンピューターのアルゴリズムは、従来の「If(条件)-Then(命令)-Else(あるいは別の命令)」という文脈ではなく、人間の脳と同じニューラルネットワークを使うのが特徴だ。一般道路のレベル4は、過疎地の高齢者に移動手段を提供したり、ロジスティクスの労働人口減少の対策となったりするものとして期待されている。

レベル3は2020年ごろ、道交法への配慮も

もう1つの技術は、アウディと同じ考えのトラフィックジャム(渋滞)のレベル3だ。厳密には、ホンダはレベル3という言葉を避けており、サブタスクをしていてもドライバー責任という日本の道路交通法を遵守する表現に留めている。

それでは、どんなシステムなのか説明しよう。スイッチを入れると、クルマは決められた速度で自動で加減速する。前を走るクルマに遭遇するとACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)で追従し、同時にカメラで車線を認識しながら、一定の距離を保って走行する。もし、前を走るクルマのスピードが低下すると、隣のレーンに自動的に車線変更する。そして渋滞に遭遇すると、時速60キロ以下のスピードでレベル3の自動運転が可能となるのだ。

先行車を追い越すデモもあった(画像提供:ホンダ)

インパネ中央部のTVモニターを見ることも可能だ。このモニターの脇にはドライバーを見張るカメラが備わっており、顔認識することで、ドライバーを監視し、いつでもドライバーに運転を戻せることを確認している。もしドライバーが居眠りすると、警報音や振動で危険な状態を知らせてくれる機能も搭載されている。

アウディはレベル3と呼ぶが、ホンダは「あくまでドライバー責任」という表現だ。アウディのケースでは、「ドライバーの安全運転責任」を規定している国連決議のジュネーブ条約(1949年)を、ドイツ国内法に限定して「免責」する法律が制定されている。日本ではまだその法律は整備されていないので、ホンダはレベル3という表現を控えたのであろう。ホンダは「レベル3は2020年ごろまでに実用化したい」と考えているが、アウディが開いたレベル3の扉に他のドイツメーカーも追従する可能性が高いので、実用化はもっと早まるかもしれない。

システムの信頼性やロバスト性という技術的な課題も重要だが、レベル3に関しては、道交法の改正がいつ頃、どこまで進むのか、冷静に見守る必要があると思っている。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある