マスコミやネットで騒がれている自動運転は、時にセンセーショルに扱われていると思いつつも、道半ばの技術を使いながら、段階的に自動運転を進化させている現実は、そのコミュニケーションがとても難しいのではないかと感じている。絶対的な信頼で成り立つ自動車産業が、新しい自動運転車の価値の社会受容性を考える時、言い過ぎてもいけないし、誤解を恐れて何も言わないのもいけない。

自動運転の丁度いい表現は

日産自動車のテレビCMでは、「単一車線自動運転」という言い方は少し言い過ぎだと思うし、最近のトヨタ自動車のように、「レクサスLS」の発表会で意図的に自動運転の言葉を口に出さなかったことは、やや「言わな過ぎ」ではないかと感じている。社会やユーザーに誤解を与えない正しい言い方に関しては、メーカーだけでなく、メディアの努力も必要だろう。

日産が単一車線自動運転技術と表現する「プロパイロット」は、ミニバンの「セレナ」とSUVの「エクストレイル」に搭載されている(画像はエクストレイル)

実際に、自動運転の技術は部分的に実用化が始まったばかりの道半ばのシステムなのである。システムを設計する担当者は、そのシステムの機能の限界をよく知っているが、クルマを販売する営業部門の人たちは、余計なことを言わずに、自社の製品(クルマ)の優れているところだけを強調して伝えたいと考えるはずだ。

だが、実際はシステムには限界があるし、その限界はクルマごとに異なるのである。それをどこまで正直に言うべきなのか、その辺りにメーカーの苦労がある。こうした課題を1つずつ解決しながら、着実に前に進めているのが自動車メーカーとメディアの立場なのであろう。

トヨタは先頃の新型「レクサスLS」発表会で、あえて自動運転という言葉を使わなかった

ついにレベル3に踏み込むアウディ「A8」

近年、自動運転が大きく取り上げられるようなったのは、2010年のグーグルカーがきっかけだったと記憶している。日本では長年、政府と自動車メーカーが一体となってASV(先進安全自動車)計画を推し進めてきたが、自動運転はその延長線上にある技術だと考えられていた。実際、2010年5月に開催された自動車技術会のシンポジウムで、私は自動運転の海外動向について講演をしたことがあった。グーグルカー登場以前から、米国ではスタンフォード大学やカーネギーメロン大学が、自動車メーカーと共同で自動運転車を開発していたのである。

しかし、その頃の見立てでは、2020年を迎える前に、手放しで公道を走れるクルマが合法的に市販されるようになるとは想像もしていなかった。だが、いよいよ自動運転が本格的に実用化すると強く意識したのは最近のこと。今年の秋に市販される新型アウディ「A8」が、世界で初めてとなるレベル3の「トラフィックジャム・アシスト」を実現させるのだ。

世界初の自動運転レベル3に踏み込むアウディの新型「A8」

難しいと考えられてきたレベル3がどんなものなのか、大いに興味があるが、自動車メーカーのエンジニア達やアカデミーの先生方とレベル3について議論すると、多くの人はレベル3の難しさを訴える。

だが、渋滞の低速時でもいいから、スマートフォンや車載テレビを見たいというニーズがあることを、私も自分自身の経験から感じていた。そこで、アウディが渋滞時のみサブタスク(運転以外の作業)を合法的に行えるレベル3に踏み込んだのは、勇気ある挑戦だと感心したのであった。

アウディのレベル3に関しては追ってレポートするが、日本でもレベル3を考えているメーカーが存在していたのである。それがホンダだ。次回はホンダの自動運転に関する取り組みを取り上げたい。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある