【連載】

清水和夫の自動運転ソシオロジー

6 人よりうまく運転できる? もしもAIがドライバーだったら

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前回の連載ではAI、機械学習、ディープラーニングについて簡単に触れたが、今回はさらに詳しくレポートしてみたい。

AIをドライバーと考えられるか

2015年11月12日、グーグルから米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対し、ある質問が出された。簡単に言うと、「ドライバーがいない完全自動運転車の場合、安全基準における運転者とは何を指すのか」という問いだった。この質問の背景には、AIが人間に代わってクルマを運転する時代に、AIをドライバーとして認めるのかどうか、という論点がある。

答えに困ったNHTSAは、レベル5(自動運転のレベリングについてはこちらを参照)で規定するグーグルの完全自動運転車に限って、「人でないものがクルマを運転し得るのであれば、それが何であれ、運転者とみなして安全基準を解釈するのが妥当」と答えている。さらにNHTSAは、「今までの安全基準は自然人(人間)が運転することを前提として作られているので、AIもドライバーとなり得るなら、安全基準を改正しないと無人運転車の基準にはなり得ない」とも述べた。

つまり、AIが運転する無人自動運転車の時代に向けては、安全基準の見直しが必要ということなのかもしれない。グーグルとNHTSAとのやり取りを聞いて、「ドライバーがいない無人運転車を政府が容認する」と理解するのは早計だろう。あくまでも無人運転車について、クルマの安全基準をどう解釈したらよいのかという例を示したにすぎない。この点については、まだ具体的な議論が始まっていないが、今後AIを擬人化する考えが広まるかもしれない。

この話は「AIはドライバーになり得るのか」というちょっとSF的な内容であるが、AI研究に熱心なグーグルなどの企業には、「AI=運転手」と政府に認めてもらいたいという思惑がある。つまり、AIは自然人や法人と同じように擬似人として社会が受け入れるべきだと考えているわけだ。

AIをドライバーとして受け入れられるかどうかが問われる

AIは1950年代から考えらえてきたアイディアであるが、いま第3次ブームと言われているのは、超高速CPUとグラフィック処理ユニット(GPU:Graphics Processing Unit)によって処理可能な、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれるアルゴリズムに注目が集まっているからだ。グーグル子会社のディープマインド(DeepMind)が作ったソフトウェア「アルファ碁(AlphaGo)」は、その象徴と言っていいだろう。これを受けて、ディープラーニングは医療からエネルギーまで幅広い分野で活躍が期待されるようになった。

個人的には少しAIブームが過熱し過ぎている気もするが、車載センサーによって得られる膨大なデータを処理するのはAIの仕事だろう。

さて、これまでのクルマは人間だけが運転することを前提に設計されてきた。シート、ペダル、ハンドル、インパネ、視界性能などなど、クルマのパッケージは人間が運転するために基本アーキテクチャーがデザインされてきたわけだが、AIが運転手なら、クルマのデザインは根本的に変わるかもしれない。もっと広い視点で考えると、AI時代は街や都市のデザインにまで影響を及ぼすはずだ。この自動運転と都市デザインの関係は個人的にもすごく興味があるテーマなので、別の機会にレポートするつもりだ。

ディープラーニングと人の経験値を比べると

ここで、アルファ碁の場合を考えてみる。従来の囲碁ソフトは、膨大な棋譜のデータベースと目の前の盤面とを照らし合わせ、展開のロジックを先読みし、次の指し手を決めていたが、完璧に人間を超えることはできなかった。ところが、アルファ碁では莫大な計算能力を背景に、人間が設定した訓練アルゴリズムに対して自分自身とも対戦し、対局データを重ね、勝利のための最善手を自ら創発的に選ぶことができるようになった。これにより、プロ棋士に勝利を収めることができたのである。

これを自動運転に当てはめてみるとどうなるか。いま世界には、約9億台のクルマ(バス・トラックも含めて)が存在する。すべてのクルマが日夜走っているわけではないが、そのクルマからクラウドを介して膨大なデータを収集できて、その判断をディープラーニングによって処理できるわけだ。

だが、人間がクルマの運転を習うときは、その手順や操作法を暗記するのではなく、基本情報を経験した上で、運転の実体験から直感的に多くのことを学んでいる。上手なドライバーに成長するには、とにかく経験が必要なのだ。だからこそ、どんなクルマに乗り換えても、未知の土地でも、交通ルールが違っても、天候や道路状況が変化しても、対応できる。人間の脳がそれらの違いを吸収し、運転することができるわけだ。しかし、いくらAIが進化しても、この無限の人間の能力を超えられるとは思えないのだ。

メルセデス・ベンツのアレキサンダー・マカンスキー(AI&社会学者)は、「AIは人間を超えられないし、AIを人間がどう使うのかが大切」と語っている。しばらくはAIと人間の知能バトルが続くだろう。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある

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インデックス

連載目次
第10回 レクサスLSで感じた高度運転支援の粋
第9回 議論白熱の自動運転レベル3、積極的なアウディと慎重なメルセデス
第8回 自動運転レベル3の時代へ待ったなし、ホンダの現在地は
第7回 自動運転の捉え方は各人各様、アウディ「A8」登場で世界が変わる?
第6回 人よりうまく運転できる? もしもAIがドライバーだったら
第5回 運転支援システムと自動運転を分ける「ニューラルネットワーク」
第4回 自動運転の認知・判断を支えるセンシング技術とは何か
第3回 レベル3が分岐点に? 押さえておきたい「自動運転のレベリング」
第2回 いよいよ無人運転車が公道に? 自動運転を取り巻く環境が変わり始めた
第1回 目前に迫る自動運転社会、グランドデザインを描くのは誰か

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