クルマを運転する際、ドライバーは「認知・判断・行動(操作)」のサイクルを絶えず繰り返している。自動運転車に置き換えると、認知はセンサー類、判断はコンピューター(AI)が担うわけだが、人間が脳で行っていることを、コンピューターに代替させるには何が必要だろうか。

コンピューターにドライバーの代替は可能か

思考パターンの転換が不可欠

一般的にコンピューターは、与えられた条件に忠実に機械に指令を出す。このロジックは「If-then-else型」と呼ばれ、従来のコンピューターソフトでは定番的な思考パターンだ。一方、AIは人工的に人間の脳を模擬するので、人間の思考パターンとして知られる「ニューラルネットワーク」を必要とする。ニューラルネットワークは人間の脳神経回路の仕組みを模擬しており、多層構造を持つニューラルネットワークでは膨大なデータ処理が可能だ。

従来の運転支援で利用されていた「If-then-else型」のコンピューター思考回路と、自動運転に資するニューラルネットワーク型を使った思考回路とには大きな違いがある。目で見たものを脳で判断するのではなく、脳と目が直結した形で認知・判断を同時に行う必要があるのだ。

クルマに覚えさせなければならないこと

人間とコンピューターの周辺状況の認識パターンの違いについて、名古屋大学の野辺継男客員准教授は次のように指摘する。

「例えば、人間は先々の信号が数多く見えても、周囲に電飾が光っていても、直近の従うべき信号を簡単に見つけ出し、赤ならば停止線の前で止まると容易に判断できますよね。コンピューターではそこまでやるだけでも容易ではなく、カメラやレーダーといったセンサーを利用して、三次元地図に照らし合わせ、従うべき信号を特定し、それぞれの状況にあった走行判断をします。現在、この正確性を追求する為にAIの利用がされようとしています。むしろ、それができなければ完全な自律走行は実現できません」

つまり、自動運転車を市販する前に、膨大な画像データや走行データを大量にコンピューターに教える必要があるわけだ。

コンピューターの処理能力が高まっても、データが少なければ正しい判断ができない。更に、リアルタイムで変化する周辺状況のデータも加え、より正確性を高めることが必要だ。一連のプロセスをひたすら繰り返すことがディープラーニング(深層学習)なのである。

運転支援から自動運転へステップアップするには、コンピューターのアルゴリズムも大きく変わる必要がある。認知のためのものと思われがちなセンサーは、もはやAIに目が付いたものと考えるべきかもしれない。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある