自動運転が話題にならない日はない。多くのニュースで報道されるようにクルマのロボット化が実現すれば、私達の暮らしは大きく変わり、未来はもっと楽しく、便利になるかもしれない。だが、その実現には課題は少なくないし、何よりもクルマを作るのは自動車メーカーなのである。

進む自動車会社とIT企業のコラボレーション

しかし、日本でも自動車メーカーとIT企業のコラボレーションが進んでいる。ここに挙げる1つの例は、DeNAと日産自動車のコラボレーションだ。両社は完全自動運転を目指して提携し、ロボットタクシーの開発と運用に熱心だ。こうした起業家精神によるイノベーションは、社会を変える大きな原動力になるが、一歩間違えると、人の命を奪う乗り物なので、安全性や耐久信頼性には細心の注意を払って取り組んでもらいたい。その点、日産が車両開発を担当するので安心だ。

DeNAは自動運転技術の活用に熱心だ。写真は最大12名が乗車できる運転席のない電気自動車の自動運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」。2016年7月にDeNAが日本国内に導入し、これまでにイオンモール幕張新都心に隣接する公園や秋田県仙北市の田沢湖畔などで走行を行った実績がある

2017年3月末に都内で開かれた起業家向けのイベント「Slush Tokyo 2017」で、当時は日産CEOだったカルロス・ゴーン氏(現在は日産会長)は、近未来の自動運転のビジョンを明らかにした。そのイベントで明らかになった自動運転のロードマップはこうだ。

・2018年頃には高速道路で複数車線の自動運転(レベル3~4)

・2020年頃には市街地の自動運転(レベル3~4)

・2022~2023年頃にはロボットタクシー(レベル5)

ロボットタクシーの実現に向けて、現在はDeNAと日産が協力して取り組んでいるが、ロボットタクシーの事業運営はDeNAが行い、日産が車両を提供することになりそうだ。

規制官庁も動き出した

さて、起業家達はイノベーションに熱心な安倍政権を味方につけ、ロボットタクシーの実現に向けては関係省庁も動いている。自動運転に関する規制は、現行法では2つの法律が存在する。1つは車両の安全性を定める保安基準(道路運送車両の保安基準)だ。これはクルマの技術的な要件の法令であり、公道を走るクルマは、その構造や装置の性能などが保安基準に適合するものでなければならないと規定されている。

この保安基準は国連で定める基準と相互に関係しており、日本と欧州は政府が許認可権を持つので、保安基準に合致しないクルマは製造販売ができない。この保安基準には自動運転が想定されていなかったので、早急に新基準を制定するため、国連欧州経済委員会の「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」で議論されている。

しかし、ロボットタクシーとなると、さらに新しい基準策定が必要で、国土交通省自動車局も頭を悩ませているのではないだろうか。車内に人が存在しないので、「ゆりかもめ」のように遠隔操作する必要があるはずだ。通信などを利用して、万が一の時の緊急停止措置は不可欠と法令で定めることは可能だ。

もう1つの重い規制は、警察庁が管轄する道路交通法(略して道交法)だ。この法律は「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、道路交通に起因する障害の防止に資すること(1条)」を目的としている。早い話が、「ある一定のルールを守って安全に運転してください」という法律だが、この道交法は人を対象としているので、ロボットタクシーとなると、「AI(人工知能)を人と見なすのか?」などの新しい概念が必要となる。

遠隔操作のクルマにドライバーは必要なのか

私がSIP(内閣府主宰の自動運転の戦略的イノベーション会議)に構成員として参画した3年くらい前は、自動運転に消極的だった警察庁。最近では、かなり積極的に自動運転の扉を開こうとしている。2016年6月には、自動運転の実現に向けて警察庁としてどのように取り組むべきなのか、という会議が始まった。

その第1回「自動運転の段階的実現に向けた調査検討委員会」では、「遠隔型自動走行システム」について議論されていた。道路交通法(道交法)が関係する国連欧州経済委員会の「道路交通安全作業部会(WP1)」では、遠隔操作に関して「自動運転車の実証実験については、クルマのコントロールが可能な能力を有し、それが可能な状態にある者がいれば、その者が車両内にいるかどうかを問わず、現行条約の下で実験が可能である」という解釈が了解された。

つまり、遠隔操作が可能なら、車内に人がいなくてもよいということになる。これを受けて警察庁は、2017年4月に「遠隔操作で走る無人自動運転車の公道実験は、新たに定めた道路使用許可の審査基準を満たせば許可する」ことを明らかにした。

しかし、法令では「遠隔操作が可能」と書かれていても、現実的には通信切れなどがない完全な遠隔システムを構築することになるので、技術的なハードルは高い。だが、クルマの技術基準を規制する国土交通省と、人の責任とルールを規定する道交法を管轄する警察庁が、ともに自動運転の実用化にむけて積極的に取り組んでいることは間違いない。

著者略歴

清水和夫(しみず・かずお)
1954年、東京都生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活動を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通。著書は日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』、ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。内閣府SIP自動走行推進委員の構成員でもある