オフィスのデスクに置かれている固定電話をスマートフォンで代用してみたらどうか。レッセ・パッセは、婦人服、小物類の企画、生産、販売をしており、全国に30店舗展開しているアパレル企業だ。社内音声通話のインフラ整備に伴いPBXをクラウド化し固定電話をスマートフォンで代用する方法で、より効率的な業務環境を整えることができたという。

担当部署の卓上に固定電話の代わりにスマートフォンが設置されている

安価に導入できるクラウドPBX

PBXとは、オフィスで複数の電話機を設置する場合の電話交換機で、施設内の電話機同士で内線通話できるようにしたり、外線(公衆回線)から内線への接続をコントロールできる機器だ。数十万~数百万円と高額なものが多く、このほか配線工事、設定変更工事、保守契約など運用にかかるコストや物理的な機器の設置スペースも必要になる。

また、年数が経過すれば入れ替えも必要になり、機器によって接続できる固定電話機も変わるため、場合によってはPBXと社内電話の総入れ替えが必要になるなど、中小規模の企業にとって、導入は大きなコスト負担となる。

レッセ・パッセは、PBXの老朽化によるインフラ見直しを検討していた。これまでは、会社代表番号を4回線、部署代表番号を3回線持ち、複数の担当者で1つの外線番号を共有していた。このため、会社代表番号と部署代表番号に受電した電話は、社内で外線を受けた社員が担当者へ転送する作業が必要だったが、転送先の担当者が他の電話に対応していたり、離席している場合も多く、転送対応による保留中の待ち時間や、近隣席のスタッフの代理対応(メモを取って担当者へ伝え、担当者が折り返し電話をするなど)は業務の妨げになっていたという。

株式会社 レッセ・パッセ システム顧問 ITコーディネータ 冨田さより氏

「何より問題だったのは、お客様からの電話も自社店舗からの電話も部署代表番号でまとめて受けていたため、お客様をお待たせする時間が発生してしまうことでした。各自に外線番号を付与し従来のお取引様は担当者が直接受け、代表番号では新規のお客様の問い合わせに限定したかったのですが、個々に外線番号を持つのはコストが高額なのでなかなか導入に踏み切れない状況でした」(冨田氏)

そこで同社が注目したのが、クラウドPBXだった。

「クラウド上にPBXを設置したサービスは、PBX機器の購入費用が不要なので低い初期費用で導入できるのが魅力でした。また、机上ビジネスフォンの代わりにスマートフォンを利用することと、管理者が直接クラウド上にあるサーバーにアクセスして電話番号の担当振り当てやグループ設定の変更が可能なため、配線工事や設定変更工事、保守契約にかかるコストも不要になります。オフィス内にPBX機器を設置するスペースを確保する必要もありません。店舗ではソフトバンクの電話サービス『おとくライン』を利用していましたので、その付加サービスのクラウドPBX『Bizダイヤル』を導入することにしました」(冨田氏)

スマートフォンで固定電話番号を持ち運ぶ

Bizダイヤルは、専用アプリケ―ションを利用してスマートフォンから固定電話番号で発着信できるサービスだ。クラウドPBXを経由し、スマートフォン本来の携帯電話番号とは別の「03」や「06」などで始まる固定電話番号で発着信を行う事で、相手先は、固定電話番号と発着信している認識でやりとりできる。

「Bizダイヤルのスマートフォン契約1回線ごとに1固定電話番号を持つことができるサービスを利用して、思い切って、オフィスに設置していた固定電話はすべて廃棄し、スマートフォンを固定電話の代用品として活用することにしました。部署ごとに固定電話番号を割り振ったスマートフォンを38台設置し、社内電話、取引先からの電話は、直接それぞれの担当者へ連絡できるようになりました。これにより、代表電話は新規のお客様からの着信に限定できました。これまで、4回線分で受信していた代表電話番号を1台のスマートフォンで受けるようになると、話し中にならないか懸念がありましたが、グループを組むことで1台目が電話中でも他のスマートフォンで受信でき複数担当者を指定できるため、変更に踏み切ることが出来ました」(冨田氏)

この斬新なアイデアにより、同社の業務環境は向上した。スマートフォンは担当者が席を離れる際にも持参できるので、どこにいてもすぐに電話応対可能になった。会議中などでその場で通話できない場合にも、スマートフォンに着信履歴が残るので、すぐに折り返し対応が可能だ。

「オプションの共有電話帳サービスを利用して全店舗の店舗名と電話番号、全社員の電話番号を管理者側で一括登録しているので、スマートフォンから店舗や部署の連絡先を検索できます。スタッフが、個別に連絡先を登録する必要もなく、発信元の社員名、自社店舗名が表示できるのでスタッフからも好評です」(冨田氏)

オプションの共有電話帳を使えば、連絡先を簡単に一括で登録でき、社内全員で共有できる

管理面では、あくまで「社内で持ち運べる固定電話」と割り切っている。個人で社外には持ち出さないルールにして、帰宅時には机に立てたまま電源を切って帰る。時間外の業務着信には翌朝スマートフォンの着信履歴を見て折り返し対応している。代表電話と消費者から直接受けるカスタマーサービスのスマートフォンは、業務終了時間後は、スケジューリング機能を利用して「時間外応答」のアナウンスを流すように設定している。

「持ち運べるスマートフォンの懸念点は、固定電話に比べ、移動中に落として割ったり、お茶をこぼして故障させたりといった危険があり耐久性が心配でした。しかし、今回導入したDIGNO U端末なら、防塵・防水・耐衝撃対応なので安心して使えます」(冨田氏)

導入コストが高額で中小企業では手が出なかったサービスも、クラウドの登場により低コストでの導入が可能になっている。中小規模の企業にとって、クラウドPBXを導入した社内音声通話のコミュニケーション環境改善は大きなメリットをもたらすだろう。