企業がスマートフォンを導入する際には、各社の現状によってさまざまな理由があるだろう。コスト削減のためにスマートフォンを導入した企業として、日本アジアグループの導入事例について、同社 IT統括室長の小山 規見氏と、IT統括室の齋藤 裕昭氏に話をうかがった。

日本アジアグループ IT統括室 室長 小山 規見氏

同 齋藤 裕昭氏

エネルギー事業や空間情報コンサルティングなどを展開する日本アジアグループは、都内の本社に加えて、100人規模の事業所が6カ所あり、全国各地に50の拠点を設置している。そうした事業所間の通話を始め、社内には固定電話回線やLAN通信回線、携帯電話、通信カードといった通信回線が混在していた。これらの年間コストが「右肩上がりで上がり続けていた」(小山氏)という。

こうした各回線のコスト削減を図るために採用したのが、KDDIのビジネスソリューション。固定、LAN、携帯、通信カードという4つの回線を1つにまとめてコスト低減できるソリューションとして、auオフィスナンバーとKDDIビジネスコールダイレクト、cdma Packet Access(CPA)などを導入。スマートフォンとしてはGALAXY S IIIを1600台導入した。

もともと、同社では7~8年前に社内電話の構成を一新し、KDDIのセントレックスサービスを利用していた。これによって社内の内線網でのコスト削減を図ってきていたが、多くの拠点ではメタル回線を使用しており、これが今後廃止の方向に向かっているため、自動的にこれまでの電話システムは終息に向かっていく。こうした側面も、今回のソリューション導入のきっかけとなったという。

KDDIからの提案は2012年の10月ごろにあり、そこから導入を進めていった。KDDIを選定した理由は、「他社だと、通信回線が複数の会社にまたがってしまうから」(小山氏)。もともと、4つの回線もキャリアや端末メーカーがバラバラで、これを機に、すべての回線をひとまとめにしようと考えたのだそうだ。

これに先行して、同社は基幹システムのERPやグループウェアのLotes Notesといった社内システムの刷新も行っており、Google Appsの導入を行っていた。従来、日本企業は社内にサーバーを設置して自前でやるという傾向があったが、クラウド化によって「固定とモバイル、音声とデータの境界が曖昧になると思っていた」(齋藤氏)とのことで、これを実現できるKDDIのソリューションを導入したという。

「KDDIビジネスコールダイレクト」と「auオフィスナンバー」は、携帯/固定を問わず、内線番号が利用可能なサービスで、社内の内線電話を外出先の携帯で受けたり、携帯から会社の番号で発信したり、といったことが可能になる。これによって、固定とモバイルの境界がなくなり、携帯による通話コストも削減できるようになった。

また、「CPA」の導入によって、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットからでも、安全に社内ネットワークにアクセスできるようになった。これにより、いちいちVPNを構築して接続作業をしなくても、すぐにセキュアに社内ネットワークに接続できるようになる。

これに、Google Appsを組み合わせることで、いつでもどこでも、社内にいるのと同じように業務を継続できるようになった齋藤氏は語る。実際に「別の事業所に行った時に本社内と同様に社内ネットワークに接続でき、フリーアドレスのように、どの席に座っても構わないので業務が効率化した」のだという。

スマートフォンとしては、GALAXY S IIIを1600台導入した。選択肢としてはフィーチャーフォンもあったが、「4回線をまとめる」という目的からはスマートフォンが最適だという判断だ。

Androidを選択した理由は、「Google Appsの導入」。Googleサービスとの親和性が高いAndroidの方が扱いやすいという判断があったそうだ。GALAXY S IIIに関しては、Android 4.0以降、メーカーごとに大きな差はなくなっているというのも考慮した上で、「Androidの素の状態からあまりいじっていないシンプルなモノを選びたかった」(小山氏)としてGALAXYシリーズを選択した。各種サービスを提供する「スマートバリュー for Business」のベーシックパックも利用しており、不要な機能を使えないようにするといった設定も行え、端末管理も容易になったという。

法人向けサポート体制も万全の備え

これまでは、申請があればモバイルWi-Fiルーターを支給するといった手続きだったが、スマートフォンは一気に全社員に配布。ソリューションの導入も手伝って、社員からは「劇的にワークスタイルが変わった」という声も聞かれたという。タブレットの導入も行っており、PCを持ち歩くことなく、外出先で必要な作業も行えるようになり、社員の負担も削減した。

クラウドにデータを置くことで、必要なデータにすぐにアクセスできるとともに、タブレットやスマートフォンにデータを保存せず、セキュリティ面でも向上したのもポイントとして挙げる。

日本アジアグループは、社内システムの刷新に合わせ、コスト削減と業務効率化を目指して、各種ソリューションとスマートフォンの導入を行った。導入によって「3割程度の削減ができる」(小山氏)としており、目に見えるコスト削減以外にも、さまざまな効率化によるコストメリットもあるという。

単に、スマートフォンを導入をするのではなく、「社内回線をまとめる」「社内システムをクラウド化する」といった社内全体のビジネススタイルを変革することで、「スマートフォンによる業務効率化がさらに強化される」というのがポイントだろう。スマートフォン単独ではなく、社内の実情に合わせたソリューションを選択して、戦略的に変革を加えていくのが、スマートフォン導入成功の方策と言えそうだ。