私の携帯デバイス体験

今回は先日手に入れたiPhone SEについて私なりに思うところを述べる。

私の携帯デバイスとの最初の出会いは車載電話である。"しゃさいでんわ"という言葉を聞いて懐かしいと思う人は少なくとも私と同年代かそれ以上であろう。電話機能だけだが、固定電話からワイヤレスになって車に設置されたもので、携帯電話が普及する前の話である。

その当時、車を運転しながら電話を受けられるというのは革命的であった。トランクに受信機を積み、車体からはアンテナが突出し、電話機はアームレストに充電器と一緒に縛り付けてある。今から思うと滑稽であるが、"常に同じ車に乗って業務で移動する=車に乗っていても電話がかかって来る、かけられる=それを可能とする機器を備えるのにはかなりのコストがかかる=その人はそれを会社から与えられるほどの重要な任務を帯びている"、と言う具合でアンテナの突き出た車で移動することは大きなステータスになっていたのである。

自慢のスポーツカーの横で車載電話をかけているSun Micro Systemsのレジェンド達。左奥からアンディー・ベクトルシャイム、ビル・ジョイ、スコット・マクニリー、ビノード・コスラ (出典:Beyond Imaginations)

最先端エレクトロニクスを生業とする私たちもすぐに飛びついた。本社から当たり前のようにOKが出て、あるレベル以上のAMDの営業、技術、マーケティング部の連中は、自分の業務用の車に早速電話を積み込みさっそうと営業に出かけた。その当時は車の運転中に携帯電話を使用することに法的規制もなかったから必要のない電話も随分とかけていたと思う。

車載電話が世に出たあとは携帯電話の技術があれよあれよという間に発展を遂げ、今やコンピューターそのものが携帯化されたスマートフォンが主流の携帯デバイスとなっている。

私のスマートフォン体験

私にとって究極の仕事用デバイスBlackberry

私はもともとスマートフォンのヘビーユーザーではない。仕事では初めから終わりまでBlackberryを使っていた。シンプルで、クラシックな黒い筐体とキーボード、世界中どこへ行っても何のセットアップもなしに飛行機から降りたとたんに勝手にローミングを開始し、仕事関係のメールをダウンロードし始める操作性。しかも、一日中使っていてもバッテリーが切れることもない。目まぐるしく変化する半導体業界で、世界を飛び回って仕事をしていた私の毎日を支えてくれた心強き相棒であった。

仕事にはBlackberryであったが、プライベートではiPhoneを使っている。やはり半導体業界に身を置いている私としては、デジタルコンテンツや幾多のアプリケーションが出てくるとその技術の進化をデバイスレベルで身をもって体験できるものはiPhoneであると考えたからだ。最初が3であった、そのあと4Sにして、5と6をスキップしてSEに変えた。

勢ぞろいした私の歴代iPhoneたち。左から3、4S、SE。アップルの徹底したブランド管理が感じられる。

SE入手

さて、今回入手したSEであるが、一言で感想を言えば非常に満足である。4Sを5年も使っていたのであるから、その感想は他の人とはかなり違っているだろう。私自身ヘビーユーザーではないので、ここからは半導体業界に35年身を置き、最近還暦を迎え仕事を引退した偏屈な爺から見たiPhone SE評として読んでいただけるとありがたい。満足した主な点は次の通り。

  • 回線の帯域が3Gから4Gへ:これは何もSEだからと言うわけではないがアクセスは速い。
  • メモリが16GBと64GBの2機種に:4Sを買ったときにはメモリ容量が16、32、64GBの3機種が用意されていて大きな価格差があったが、SEでは16GBと64GBにそこまで価格差はなかった(私は64GBを選択)。これこそ半導体デバイスの最先端フラッシュメモリの微細加工の発展と激烈な価格競争のなせる業である。
  • CPUがシングルコアからデュアルコアへ:アップル専用のA9(1.85GHz、TSMC製とSamsung製両方混在しているらしいが私のiPhoneにどちらか使われているかは不明)、かなり速い。
  • iPhone6 Plusなどのように、タブレットなのかスマホなのかわからないような大画面でなく、片手にすっぽり収まるiPhone5と同じサイズ、しかしディスプレイ部分は4Sよりも大きい。
  • バッテリー寿命が4Sと比較にならないほど改善:4Sのバッテリーがへたったのと、たまたま質のいいバッテリーを使った個体を入手したのかもしれないが、一日中充電なしで使用可能。
  • しかもハード、使用料金パッケージが4Sよりも低価格:報道を見ていたので薄々気づいてはいたがこんなにあっけないものかという気持ち。メーカー間、またそれをプラットフォームとしてユーザーの囲い込みに必死なキャリア間の激しい競争のなせる業。

私は、アップルが新製品を発表するたびにその機能、性能などにはかなり注目して記事を読んでいるが、SEの発表がされた時"これだ"、と思った。中身がずっと充実して値段は下がる。これこそが半導体デバイスの技術発展でもたらされるエンドユーザーへの価値の還元である。私はカメラのスペックには興味がないし、公共の面前でスマホに話しかける(音声認識ソフトSiri)ような行為もしないから、6シリーズには全く触手が動かなかったが、これらのアプリケーションを重視するエンドユーザーにとっては価値の上昇はもっと高いに違いない。

巷の人が皆スマホに話しかけることになったら騒々しいことだろうし、個人的には格好悪いと思う

ちなみに、私は4月10日に某キャリアSで購入を申し込んだ。その時は5月上旬に入荷ということであったが、実際に入手出来たのは6月10日。"SEが売れ過ぎると7の販売に影響するからアップルが生産量を絞っている"と見る向きもあるようだが、個人的にはコストパフォーマンスが良い(アップルからしてみれば利益が少ない)のであまり売りたがっていないのではと考えている。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
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