ブランドクラスに応じてスペックを調整するIntelの戦略

かくして、第六世代CPUのIntelとAMDのし烈な競争が始まった。IntelはPentium Proで発表した第六世代のアーキテクチャをコンシューマー市場に広めようと躍起になっていた。問題は、一次キャッシュをCPUコアと同じシリコンダイに集積しようとしたPentium Proはサイズが大きくなりコンシューマー市場に売れるような価格帯になかなか持っていけない。そこでIntelが考え出したのが、Slotという考え方である。Slot1という黒いケースに入った基盤にCPUとL2キャッシュを二個両側に実装したモジュールで、マザーボードに垂直に刺さっており、その側面にCPUファンがついている。Pentium IIである。初めて目にしたときは非常に異様な感じがしたが、Intelはこれを力ずくでコンシューマー市場に拡販しようとしていた。

後にAMDが第七世代Athlonで採用した方法である。

Pentium II (提供:長本尚志氏)

ここでIntelが考えたマーケティングの手法は後のパソコン市場、あるいはサーバー市場の展開を見越していたという点で大変優れていた。Pentium IIを中心に据え、上位にPentium II Xeonというサーバー用のCPU、下位に低価格コンシューマー市場に売り込むためのCeleronブランドを導入した。

これらの製品は、CPUコアは同じであるが、キャッシュメモリのサイズ、あるいはアクセススピードなどをブランドクラスに合わせて調整していた。この頃から、インターネットの爆発的普及は明らかになっており、インターネットの端末側のPCの普及はもちろんであるが、何十億人というユーザーからのトラフィックを根幹で支えるデータセンターの能力も級数的に増大されるようになる。

Intelはこのインターネットに必要なキーコンポーネントであるCPUを、1つのCPUコアに基づいて派生製品を生み出し、異なるブランドで定義することによって、それらの分野での当該製品の市場価格を自らコントロールするビジネスモデルを打ち立てた。天才的なマーケティング手法である。

  1. データセンターのサーバー用のCPU: Xeon 単価1000ドル以上
  2. 高性能PC用CPU: Pentium II 単価100~200ドル
  3. Internet端末としての普及型PCのCPU:Celeron 単価100ドル以下

同じCPUコアでインターネットの上流から下流まで完全にカバーし、莫大な利益を上げるというのがIntelのマーケティングの真骨頂である。読者もお気づきだと思うが、この時インターネット端末としてのタブレット、スマートフォンを視野に入れなかったことが、その後のIntelの大きな問題となるが、その理由は筆者もわからない。

Pentium II Xeon (提供:長本尚志氏)

しかし、これらの分野で当時最も成長していたのは明らかにPCの市場であり。ユーザーは高性能、かつ廉価なPCを求めており、AMDのK6はこの期待にしっかり応えていた。

Pnetium IIに移行するには、ユーザーは今まで使用していたマザーボードを捨てて新しいものに変えなければならなかった(今までIntelがやってきたユーザーを無理やり移行させる手法、前の製品Pentiumを殺しにかかったわけである)。しかも、Pentium IIは非常に高価だ。

それに対し、AMDのK6は、従来のPentium用のマザーボードSocket7をそのまま使い、CPUを替えるだけで高速化が可能になる。しかも、AMDのK6はこれからも性能高速化のしっかりとしたロードマップを発表していた。自作ユーザーだけでなく、大手のPCメーカーもAMDの手法を歓迎した。

(次回に続く)

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
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