直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、ANAのミャンマー合弁事業、Airbnb・ANA・Peachのパートナーシップ締結について取り上げたい。

ANA、ミャンマー合弁事業を清算
ANAホールディングスは、ミャンマーで設立した合弁会社を10月末で清算した。ANAHDが11月7日までに明らかにした。合弁会社「Asian Blue Aviation」は2016年3月、ミャンマーの大手財閥シュエ・タン・ルウィン・グループと設立した。資本金は15万米ドル(約1,700万円)で、ANAHDは49%出資。ミャンマーからの国際線運航を目指していた。(11月7日: Aviation Wireより)。

ANAは2013年にミャンマーの航空会社「Asian Wings Airways Limited(アジアン・ウィングス・エアウェイズ)」(AWA)に49%出資を表明した

ANAの苦難、「3度目の正直」を掴めるか

ANAのミャンマー戦略は4年前から難しい舵取りを強いられている。2013年にミャンマーの航空会社「Asian Wings Airways Limited(アジアン・ウィングス・エアウェイズ)」(AWA)に49%出資を表明した時には、「米国の制裁リストに載るほどの問題事業者(同族のエアバガン社のオーナーのことを指す)の植民地エアライン(Colony)に出資するのはあまりにリスキー」などの懸念が地元でも多く出されていた。結果的に、ANAが合弁を解消したのはそれから10カ月後であり、おそらくAWAとの訴訟リスクを回避する作業期間だったと思われる。

最終的に25億円に及ぶ出資金を振り込む前での事業解消ができたとはいえ、その時点で「大丈夫」とのゴーサインを出したコンサル会社の言っていることをもっと疑うべきであっただろう。そうしていれば、今回の「アジアンブルー」設立のパートナーが「法人税を公明正大に支払っていない」との取って付けた理由で既存エアラインが展開した新規参入妨害工作に合い、事業を断念する羽目にはならなかったのではないか。

ともあれ、今回のANAにとって2回目の頓挫においては、エアライン11社が乱立し、公表はされないもののほぼ全社が赤字の「勝者なき戦い」と言われるミャンマー航空業界事情が大きく作用し、政界・運輸省に影響力のある既存事業者がこぞってANAによる新規参入阻止に走った構図が読み取れる。

また、仄聞するところ、アジアンブルーのビジネスモデルは「もうからない国内線を捨て、ヤンゴンからの国際線に特化、就航地点はANAが整備支援できるアジアの就航地とするLCC」と言われていた。これら就航候補地点には、東京からのANA自社路線がすでに存在するわけだし、海外各地でANAが販売支援をできるような体制にはなかった。

つまり、アジアンブルーの事業は本体の国際線ネットワークを補完するようなものではなく、アジア地域になんとか新規事業を立ち上げたいとする「事業意欲」だけが先行したものだったと感じられる。その意味では、事業を開始できたとしてもそれが軌道に乗るかは水ものであっただろうから、結果的には頭痛のタネになる新規事業のリスクを回避できたとも言える。

では、今回の2度目の事業解消の後はどうなるのだろうか。筆者は「ミャンマーの既存エアラインへの出資」に回帰するのではないかと思う。「3度目の正直を狙いたい担当部門の意地」もあろうし、地元事業者の中にはANAとの協業で生き残りを図るか、株式売却でエグジットを検討する企業もいる。

現在のミャンマー運輸当局としては、適切なコンソリデーション(事業者の統廃合)を図りたいのだが、エアラインオーナーはある種の名誉欲でやっている人や会社が多く、本業でもうかっているので多少の赤字でも続けるという会社がほとんどで、手のつけようがない。そこで最近、「新たなAOC(航空運送事業免許)は出さない。また、同族会社のAOCはひとつにまとめる」方針を示したと言われており、一族の片方が持つAOCを売却して切り離しつつキャピタルゲインを取ることを考える会社も出てくるだろう。

一方、1機2機で細々と運航するエアライン(FMI航空、APEXエアラインズ、マン・ヤダナポン・エアラインズなど)はANAと組むことで事業を拡大する資金を確保し、ブレークスルーを狙いたいと考えるだろうが乗員の確保などANAにとっては出資後の手間がかかる。すると第3の提携先は、過去にケチのついたエアバガン、AWAや国営のミャンマーナショナル、いまだに米国制裁リストに載るヤンゴンエアウェイズを除く会社から選ぶことになろう。

そうなると、兄弟会社であるエアKBZと袂を分かって成長を期したいミャンマーインターナショナルや、A320運航経験のあるゴールデンミャンマー、MRJを発注しているエアマンダレーなどが有力候補となると思われるが、今度こそ頓挫させないことを意識するあまりの「高値掴み」とならぬよう、願う次第である。

Airbnb・ANA・Peachがパートナーシップを締結
ANAとピーチ・アビエーションは11月6日、世界中の空き部屋や家をシェアできるサービス「Airbnb」と、新しい旅行スタイルの普及と拡大におけるマーケティングについてパートナーシップ契約を締結した。

3社は「日本の旅を変える、新しいスタイルを提案」という理念のもと、新しい国内旅行市場の開拓を目指していきたいというビジョンを打ち出した

ANA・JALのパートナー争奪戦は民泊でも

今回のAirbnbとANAグループ両社の提携は意外性のあるものではない。すでに4月にJALが民泊仲介業者である百戦錬磨と業務提携を発表し、同社が仲介もしくは保有する古民家や別荘などを組み込んだ旅行商品の販売やマイル提携を行っている。9月にはJTBも百戦錬磨との提携を発表し、楽天も民泊事業への参入を表明するなど、2018年6月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)を見据えたパートナーの囲い込みが激化している。

民泊をめぐっては現在、まだ一部特区等での制限付き事業しか認められていないにも関わらず、インバウンドの急増にホテル事情が対応できていない地域を中心に外国の仲介業者による不法営業が問題になったり、近隣住民とのトラブルも頻発したりしている。

その中で、悪い評判の連鎖というレピュテーションリスクを恐れる大企業事業者は「様子見」の状況であったが、「競合に後れをとるな」というもうひとつの大企業のDNAが民泊新法の法制化に乗って、一気に動き出したということだろう。以前にも取り上げた、「ANAとJAL、「パートナー争奪戦」は勢力図を変えられるのか?」が旅行業界にも広がっているとも言える。

他方11月17日、公正取引委員会が独禁法違反の疑いでAirbnbに立ち入り検査を行ったという報道を各社がしている。民泊代行業者に競合社を使わないよう強要したとされているが、このような排他的な囲い込みが増え、ある宿泊場所が特定のサイトでしか予約できないとなると、利用者が自分に最適な条件の民泊を手早く探すことは難しくなるし、宿泊施設側においてもゲスト受け入れの機会減少=空室リスクが大きくなる。今後も独禁法に照らした十分な監視が必要になるだろう。

こうなると、民泊施設のメタサーチ(比較サイト)が十分に機能することも望まれるが、最終商品が基本的に個人の住宅になるだけに、旅客の期待との乖離や品質劣化などクレームのタネは尽きない。これらが淘汰され、良質な民泊を提供できるようになるには、ソフト(宿泊探索)・ハード(民泊素材確保)が一定度こなれてくる必要がある。果たして2020年に間に合うのか、時間との戦いだ。

それとともに、今回の民泊提携と併せピーチが発表した個人間取引型の旅行予約サービス「COTABI」は、非常に興味深い試みと言える。これは、インフルエンサーから挙げられた旅行体験をそのまま商品化して販売しようというものだ。

もちろん、ごく普通の人のレアな体験でもいいのだが、多分商品ラインナップの手を広げすぎると旅を探す読者も、その品ぞろえをするピーチ(もはやこの段階ではエアラインというより、旅行会社とランドオペレーターと広告メディアを合体させたようなものになっているだろう)も検索や準備にかかる作業が大変だろうし、在庫リスクを誰が負うのかという問題も出てこよう。

しかし重要なのは、LCCとしての事業拡大の限界も視野に入れながら、自らの業態の多様化を図ろうというピーチの企業風土がこれからも守られ、進化していくのかどうかだろう。いろいろなサービスを盛り込むとウェブサイトもごちゃごちゃしてくるので、航空券サイトとのすみ分けも行われていくものと考えられる。

また、JAL・ANAの民泊商品はいずれハイエンドの貴重な旅体験をもたらすものに特化していくと思われる。そうなると、「予約を取るのが難しいけど、〇〇がすごい」など、レアな贅沢さを提供できるノウハウ(特別な予約優遇契約など)を持つ会社との提携など、ますます広範なパートナーシップが形成されていく。エアラインのプロダクトが移動ツールから旅・体験の創造へ、そして人々のオフタイムからのQOL(Quality of Life)の形成と、利用者とのより濃い関係の中で進化していくのを楽しみに見守っていきたいものである。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。