直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、初開催の次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会や、ジェットスター・ジャパンの成田=宮崎線について取り上げたい。

「新たな財源の確保策について初会合 - 出入国や航空、宿泊で公租公課を検討
観光庁は9月15日、第1回「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」を開催した。同会議では、増加する観光需要に対して高次元で観光施策を実行するために必要となる国の財源の確保策について検討を行い、世界ですでに実践されている出入国や航空旅行、宿泊施設に関する公租公課を踏まえて検討。第2回は9月28日に航空業界等からのヒアリング、第3回は10月上旬に地方自治体や旅行業界、宿泊業界、海運業界等からヒアリングを経て、その後、秋頃に中間取りまとめを行う。(9月20日: 観光庁より)。

出入国や航空旅行、宿泊施設に関する公租公課を踏まえて検討

透明性の高い「使われ方」の議論も求む

観光立国に向けてインフラ整備を含む受け皿のさらなる充実に向けた国の検討が始まった。論点や課題はすでにメディア等でも列挙され始めており、「何に対する対価として税を徴収するのか=負担と受益の整合」「一部の地域に受益が偏らないのか」「徴収方法は航空券に上乗せか。空港・鉄道・港湾の出国現場か」など、主要な論点が大揃いつつある。まずは観光庁の有識者による検討委員会での具体案の議論に委ねるということかと思われるが、筆者としてはその「使われ方」がどのように定められるかが重要だと思っている。

日本人を含む全ての出国者から1,000円を徴収すれば年間400億円に達する財源だが、航空機燃料税の税収が年額650億円程度(減免中。平成27年度財務省資料)なので、それなりの規模に達する。菅官房長官は会見で、「増加する観光需要に高次元の対応を行う」ためと述べている。だがそのためにも、それぞれの地方自治体や空港が自分の地域のことだけ考えて要望したり、税金を持ってくるために空港系コンサルだけがもうかるような図式になったりするのではなく、現在の空港運営権審査をベースに、より透明性が高く、客観的な基準に基づいて支出先・支出額を決定する構造が求められる。

つまり、お金がどこにいくら費やされているのかを見える化することが、大変重要ではないだろうか。その意味では、出入国者の身元確認や二次交通を含む交通機関の状況などITを活用した各種データの一元管理運用なども、旅行者への迅速・的確な情報提供で旅程を効率化できるならば一つの有効な整備課題になり得るだろう。

訪日誘客支援空港の決定に当たっては、最終的な評価順位を公表しないまま、27もの空港が名前を連ねた。受益の公正を言い出すと、各地域が順繰りに恩恵を受けるような仕組みになりがちだが、「費用対効果」を吟味し、後検証によってやりっ放しを防止するような合理的な運用となることを期待したい。

ジェットスター・ジャパン、12/21から成田=宮崎線開設
ジェットスター・ジャパン(GK)は9月20日、12月21日に成田=宮崎線を開設すると発表した。約2年半ぶりに開設する17路線目の国内線で、運航機材は180席のエアバスA320-200、1日1便で運航する。

宮崎は同社の国内12都市目となる就航地で、約2年半ぶりに開設する国内路線となる

「九州戦争~LCC対ハイブリッド~」の勝者は?

GKは9月、片岡優会長が社長に就任して業務を統括する体制変更を行うとともに、国内路線の展開については成田=宮崎線を12月に開設、さらに、長崎線就航も目指すなど、「九州重視」の構想を打ち出した。

ソラシドエアの本拠地への就航で正面勝負ということかと言われるが、GKはすでに九州では成田=福岡/鹿児島/熊本/大分に就航しており、ソラシドエアとも競合状態にあることから、宮崎線や長崎線の就航によって競合の構図が変わるということではないだろう。ただ、羽田からの九州路線全てでぶつかるというのは、ソラシドエアにとって気持ちのいいものではない。

GKの宮崎便は当初は1日1便だが、大分/熊本/鹿児島便はダブルデイリーを維持しており、2便化は早そうだ。GKの旅客構造は成田経由のインバウンドと九州地元民の格安移動の2本立てだろうし、パッケージ旅行の組みやすさ、品揃えを考えると朝夕のメニューは必須である。

今後のGKとソラシドエアの競合環境を見てみると、ソラシドエアの昨年度の平均旅客単価が1万3,000円台、利用率が66%であるのに対し、GKの九州路線の運賃は7,000~9,000円レベルにあり(比較サイトから抽出)便数格差が接近すると、ソラシドエアのイールドが下がることも考えられる。ソラシドエアは2016年度営業利益40億円、純利益24億円と順調な決算を行っているが、これは座席キロあたりコストが6円台とLCC並みに低いことで損益分岐利用率が55%という非常に低い水準にあるためだ。

一方、GKも2期連続の黒字を達成し、2016年度は5億円の純利益となった。しかし、売上高528億円、利用率85%で、1%下がれば▲6億円となって利益が吹き飛ぶ状態であるし、決算説明でもCFOから「過去の整備引当金を精査した結果」との発言もあり(通常は支払利息等でマイナスとなるところ営業外損益が+3億円)、財務状態については安閑とはできない状況にあろう。5月末に「ジェットスターインターナショナルグループ(大阪本社、片岡優代表取締役)」の官報決算公告では、▲7,200万円の赤字とともに97億円の資本金の99.9%減資が行われると述べていることも背景が気になるところだ。

とは言え、羽田と成田、という決定的な利便格差はあるものの、東京駅LCCバス(2社運行)の便数も増え成田の利便性は着実に改善されており、利用者にとってこのような競争が進化することは大変有益と言えるだろう。「九州戦争~LCC対ハイブリッド~」の行方を注視していきたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。