直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかかったものを「深読み」しようという企画。今回は、阪急電鉄の伊丹空港に乗り入れ案、エアアジア初の国内対面店舗について取り上げたい。

阪急電鉄が伊丹空港に乗り入れを検討
阪急阪神ホールディングスの中核子会社、阪急電鉄が大阪国際(伊丹)空港に乗り入れる新線を検討していることが9月1日、分かった。阪急宝塚線曽根駅(大阪府豊中)と空港を結ぶ約3kmの地下を運行する。実現すれば大阪・梅田と伊丹空港が1本で結ばれる。今後、同路線を使う乗客の需要を予測し、採算ベースに乗るか見極めてから事業化を決める

現在、伊丹空港への公共交通機関は大阪モノレールと空港バス(一部タクシー)のみ

本当の「広域観光圏」に向けた取り組みとして検討を

これは鉄道マニア、航空マニアにまたがる大きな話題として、関西の交通関係者の間を駆け巡った感がある。「なぜ今までその計画がなかったのか」というほど、明らかに需要の見込める路線なのだが、問題は現時点で1,000億円と言われる設備投資に見合うリターンを取れるか、現実的に用地確保を含め軌道の敷設ができるのか、という点にあると見られている。

鉄道の視点では筆者はアマチュアであるので立派なことは言えないが、ポイントを整理してみる。現在は伊丹空港の航空旅客1,500万人、空港勤務社の流動300万人、年間計1,800万人程度が大阪モノレールと空港バス(一部タクシー)を利用しているが、これが阪急の直通によってどのように変わるのか。運賃次第ではあるが400円強でいけるのであれば相当のシェアを取れるのではないだろうか。何としても、梅田から15~20分で確実に空港につけるのは大きなメリットだ。

他方、客を奪われるのは大阪空港交通(空港バス)だが、この会社は阪急電鉄の関連会社である阪急バスが85%の株式を保有しており「共食い」になる恐れがある。また、モノレールは大阪府が65%を持ち、地元との軋轢も予想される。ただ、伊丹空港から鉄路では手間のかかるなんばや上本町などの市内主要地点や、奈良・神戸など近郊都市拠点では、まだバスに一日の長がある。

また、2031年を目途に新大阪=梅田=関空を結ぶなにわ筋線の計画もあり、十三をハブとする関空・伊丹・神戸空港=京都・大阪・神戸を結ぶ二次交通網が大幅に整備される可能性を有している。これは、形ばかりで語られることの多い「広域観光圏」を関西がリアルに実現できる可能性が高くなることを意味する。伊丹空港乗り入れだけでは利用者のモーダルシフトはあっても総需要の拡大にはつながりにくいが、関西3空港と各都市圏が有機的につながれば、それが新たな関西旅行の魅力として発信され、旅行者の拡大につながる。

阪急電鉄単体の収支計算では投資回収に赤信号が灯る場合でも、国・地方自治体・経済界に本邦航空会社も巻き込んだ推進体制を形成できれば、インバウンド吸収のゲートウェーとして、関西の役割が大きく増すことも期待できる。ぜひ前向きな検討結果を期待したいものである。

エアアジア 初の国内対面店舗を新宿に開設
マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジアは9月1日、航空券などを対面で販売する店舗を東京都新宿区にオープンした。日本では初の対面店舗となる。担当者に直接相談しながら旅程を考えたい顧客や、増加するインバウンド(訪日外国人客)の取り込みを目指す。

アアジアが展開する全路線の航空券販売や付帯サービスの対応、さらに、エアアジアの航空券を含んだパッケージ旅行や就航地のビザ手配など、より旅の可能性を広げるサービスを展開する

路面店を展開するメリットが果たしてあるのか

筆者からするとエアアジアが奇策を打ち出したと感じる。今や日本の大手航空会社ですら、主要都市の目抜き通り1階にあったカウンターを家賃の安い"空中店舗"に移す時代に、福岡の代理店への業務委託ではあるが、エアアジアはインバウンド旅客をターゲットに新宿に有人店舗を出店するという。筆者にはそれが時代に逆行する動きにしか見えないのだが、何か深謀遠慮があるのだろうか。

インバウンド来訪客の最近の行動パターンはますます多様化しているが、ジャパン・レール・パス(JRグループ6社が共同して提供するパス)を購入・使用するには帰路の航空券が必要で、帰りの日程をオープンにして日本でどうしようか考える人がそんなにいるのか。いたとしても新宿に1店舗開いたところでそれらを摘み取れるのか。

航空会社はますますウェブ志向を強める中で、旅行会社ですら路面店の運営は厳しくなっている。H.I.S.が最近苦戦を伝えられるのも、人件費や運営費用の圧迫で実店舗の運営が重たくなっているからと言われるし、京急電鉄は子会社の旅行会社である京急観光をJR西日本参加の日本旅行に売却することで合意した。このような趨勢を生み出したのは、消費者のネット移行が急激に進み、メタサーチやOTA(オンライン旅行会社)で十二分に事足りるため、対面で係員に頼って旅行を買う高齢者も少なくなっているなど、消費者の購買行動が大きく変化しているからではないのか。

エアアジアXは長距離LCCの草分けであるが、必ずしも先行優位を謳歌しているわけではない。エアアジア・ジャパンの設立においても、今にも就航と言われて1年以上が経過し、業界では2018年前半に飛べるかどうかという見方が多いのが現実で、日本でのグループキャッシュフローがどうなのか訝(いぶか)る向きも多い。

アジア各地でエアアジアは10店舗以上を展開しているとはいえ、ネット決済の普及度等から路面店依存度の高いアジア各国の事情がそのまま日本に当てはまるのか。話題づくりにはあるだろうが、どれだけの航空券販売の増加につながるか、合理的なLCCの考え方に見合う投資になるのか、冷ややかな目で見ている業界関係者は少なくないのではないだろうか。受託会社であるトラベルウェスト社がどこまで肩入れしてコストを持つのか、もしくは後ろに大手旅行会社が支援しているのか、もう少し詳しい背景と推移を見守りたい。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。