あるはずのシーンがない?

退屈な機内での数少ない楽しみの1つが映画鑑賞。最近ではエコノミークラスでもパーソナルテレビがほぼ標準装備で、オン・デ・マンド方式も急激に普及して自分好みの作品を選んで観られるようになっている。

ただ、何度も観たことのある映画だと、「あれ? 」と違和感を持つシーンがある。よくあるのが主人公とその恋人がベッドになだれ込むシーン。これから2人の熱い抱擁がはじまる……はずがいきなりカットされて、まったく別の場面が出てきて話が進んでいく。そう、ラブシーンがカットされているのだ。まあ、そういうシーンを観ていてCAにのぞかれたりすると気恥かしいので、カットしてくれた方がありがたい気もする。

パーソナルTVのモニターサイズは座席クラスごとにかなり違う。まずエコノミーは大きくて10インチ前後。ほとんどが前席に埋め込まれたモニターで観る(写真左はANA)。ビジネスクラスのモニターは前席に埋め込まれたものか、アームレストから取り出すタイプかに分かれる。サイズは15インチ前後が標準(写真上はルフトハンザ ドイツ航空A380型機)

また、過激な暴力や事故を題材にした映画は放映自体がされにくい。たとえばサスペンスはOKでも、ホラーはラインナップに入りにくい。世界的に有名な作品でもそうで、例えば北野武監督の『BROTHER』や『アウトレイジ』は暴力シーンが多すぎるためだろう、機内で観たことはない。

『タイタニック』の放映についてJALでは……

ただ、どの作品を放映するかの規定は航空会社によって違う。

興行収入1位の栄冠を約10年も保ち続けたレオナルド・ディカプリオ主演の映画『タイタニック』(1997年公開)。JALではこの映画を放映するかどうかを社内会議まで開いて吟味した。そこまで慎重になったのは「事故」を描いてあるためだ。航空機と船という違いはあるとはいえ、「刺激が強すぎるのではないか? 」との意見が社内にあったという。しかし、結果的には放映し、好評を得たとのことだ。

ところが、他の多くの航空会社では特に問題になることもなく、大ヒット作ということで機内映画のラインナップに普通に加えられた。

つい最近でいえば、3.11の震災の影響を受けたクリント・イーストウッド監督の『ヒア アフター』だろう。内容は主人公が死に直面しながらも強く生きていく良質なヒューマンドラマなのだが、冒頭にリアルな大津波のシーンがあるため機内放映どころか日本国内での公開も中止された。ところが、外資系の航空会社では日本路線でもラインナップされていた。それくらい航空会社によって考えが違うのである。

LCCでエンタメのサービスがある航空会社は有料でポータブルテレビを貸し出す

一般に欧米系の航空会社の方が日系よりも"おおらか"だが、筆者が驚いたのはオーストラリアのカンタス航空。カルト的な人気を持つデビッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』にはちょっと過激なレズシーンがあるが、それをカットせずに放映していた。リンチ監督の映画にはシュールなシーンや過激な題材が多く、航空会社によってはエントリーさえされないと思うのだが、さすがはカンタス、早くからゲイパレードが行われている国の航空会社、という印象を持った。

ちなみに、いまLCC(格安航空会社)のライアンエアーではアプリを使ってポルノが観られるサービスを計画しているという。ライアンエアーは過去に"立ち席"シートを検討していたが、いまだに設置されてはいない。ちょっとお騒がせなLCCでもある。実現されるかは「?」だ。