第4章では、EMI(エミッション)試験について述べていきたい。主な試験には放射妨害測定、伝導妨害測定、電源高調波測定、電圧変動/フリッカー測定、雑音電力測定などがある。これから試験方法についてそれぞれ説明していくが、EMI試験の目的、すなわち、「電子機器から発生する妨害波が所定のレベル以下であり、他の機器に影響を与えないことを確認する」、ということをぜひ意識して読んでいただきたい。

・放射妨害測定
放射妨害測定は、伝送経路が放射妨害にあたるエミッションを測定する試験であり、幅広い製品を対象に行われる。この試験は、「放射電界強度測定」、「放射磁界強度測定」などのように分けて取り扱われることもある。試験の目的として、電気・電子製品の筐体から放射される不要輻射ノイズが規定値以内であるかどうかを確認することがあげられる。試験には、オープンエリアテストサイト(OATS)または電波暗室(半無響室)が使用される。周波数により使用アンテナは異なるが、通常30MHz~1000MHzの範囲での測定が行われる。規格の要求によっては30MHz以下の磁界や1GHz以上の電界測定も行う場合があるので、限度値や測定する周波数範囲を規格に基づいて確認する必要がある。

試験時、EUTから確認される電磁波の最大値を測定するため、アンテナを1~4m までの間で高さを変化させ、またEUTからの最大放射方向を確認できるよう、被測定対象を360°回転させる。測定のためには多くの不確かさが含まれるので、人為的な誤差を極力減らすことにも注意が必要である。測定者はスペクトラムアナライザやEMIレシーバ(*注1)などを使用し、ノイズのレベルを測定し、記録していく。アンテナ偏波は水平、垂直の両方での測定が要求される。

*注1: EMIレシーバは狙った周波数の1ポイントのみを測定し、ノイズレベルを測る測定器である。一方、スペクトラムアナライザ(スペアナ)は、周波数範囲全体の電圧スペクトラムを瞬時に測定する。そのため、測定者はスペクトラムアナライザを使用してノイズが出ている周波数帯を特定し、EMIレシーバで正確なノイズレベルを測定するのが通例。今ではスペアナとEMIレシーバが一体となっている測定器も多く存在する。

・伝導妨害測定
この試験は、電気・電子製品の電源ラインを伝って放出される不要ノイズが規定値内であることを確認するものである。伝導性ノイズは、前章で紹介した伝導妨害を引き起こすもので、ケーブルで接続された機器同士や、同じ系統の電源コンセントを使用している機器同士などに発生する。

試験は基準金属面 (2m×2m以上)が要求され、通常、シールドルームで行われる。試験は比較的簡単であるものの、測定者、測定環境によって得られる結果のばらつきをなくし、再現性を保つため、装置の動作モード、ケーブル類の配置、装置自身の配置などを規格書に要求されたとおりにセットアップする必要がある。

周波数は、150kHz~30MHzに対して試験することが一般的である。測定器はスペクトラムアナライザとEMIレシーバのほかに、LISN(*注2)が使用される。

*注2: LISNは正式名称をLine Impedance Stabilization Network、または疑似電源回路網と言う。被測定対象から見た電源線側のインピーダンスを一定にし、供給電源からの雑音を除く役割を担う。また、測定対象から帰ってきたノイズを測ることができるよう、測定器用端子をつけるために使用される。LISNは大地面を基準とするので、LISNを確実に大地面に接続した上で試験を行うことも、再現性を高めるポイントである。

・電源高調波測定
機器の消費電流の波形に歪みが発生すると、その歪みの波長に伴って、2次、3次…といったように高調波が発生する。日本での一般家庭コンセントは50Hzまたは60Hzであるが、50Hzで波形に歪みが生じた場合には、100Hz(2次)、150Hz(3次)の高調波が、60Hzの場合には120Hzや180Hzの高調波が発生する。この高調波は、機器や機器に接続された他の機器に様々な障害をもたらす可能性がある。例として、通信に干渉を引き起こしたり、場合によっては焼損や火災に至ったりすることもある。欧州ではEMC指令の中に高調波抑制の規格として、EN61000-3-2 が整合化されており、強制となっている。日本国内では「家電・汎用品高調波抑制ガイドライン」に基づく自主規制が行なわれ、他の多くの国においても同様の規制が検討されている。電源高調波測定は大切な試験項目であるが、試験自体は専用の測定器が用いられ、測定器を適切に扱えば問題なく行うことが可能である。ただし、機器別にクラスが分けられ、それぞれのリミットへの適合が要求されるので、規格を確認する必要がある。

・電圧変動・フリッカー測定試験
フリッカーは「輝度またはスペクトラム分布の時間的変動による光刺激によって起こる視感覚不安定性の印象」と定義され、言い換えれば、人間に知覚される明るさのちらつきの度合いを定量的に評価するものである。フリッカーの例として、モーターを持つ掃除機などの製品を起動させる時に、室内の明るさが一瞬暗くなってしまうことがあげられる。これは配電系統に流れる電流が変化した結果、照明に供給される電圧が変動し、明るさの変化が引き起こされたからである。

このようなフリッカーの測定は、基準が定められた配電環境において電源を供給し、試験対象機器を動作させた状態で電源電圧の変動を測定する。試験に際しては、電源電圧の過渡的な最大の変化量、ほぼ安定した時の変化量、そして変化の頻度などが測定され、それらを総合して判断が行なわれる。

・雑音電力測定
電熱機器、電動工具などクロックを持たない機器に対しては、大半のノイズが電源ラインなどケーブルからの放射であることが知られている。そのため、大掛かりなテストサイトや電波暗室なしでも、簡易に測定することを目的に、この雑音電力測定は開発された。

試験は30MHz~300MHzに対して行われ、校正された吸収クランプを使用してケーブルから放射される電力の測定を行う。測定周波数30MHzにおいて、半波長が5mになることから、クランプの長さ1mを考慮してケーブル長さを6m にして測定することを必要とする以外は、比較的簡単な測定である。

次章では、イミュニティ試験について説明していきたい。

参考文献:
主要国EMC規制と試験概要 (UL Apex Co.,Ltd)
EMC入門講座 電子機器電磁波妨害の測定評価と規制対応 (山田和謙、池上利寛、佐野秀文)
EMC用語集 第2版 (一般財団法人KEC関西電子工業振興センター)

著者紹介:UL Japan

2003年に設立された、世界的な第三者安全科学機関であるULの日本法人。現在、ULのグローバル・ネットワークを活用し、北米のULマークのみならず、日本の電気用品安全法に基づく安全・EMC認証のSマークをはじめ、欧州、中国市場向けの製品に必要とされる認証マークの適合性評価サービスを提供している。詳細はUL Japanのウェブサイトへ。