前回、見積りの精度を上げる際のポイントの1つは「実績データを蓄積すること」と説明し、1番目から3番目までの具体的な作業手順を紹介しました。以下より、4番目と5番目の作業手順についてお話します。

4.属性情報を決める

複数の性質の異なるシステムのデータを蓄積、活用するためには、その特性の違いを表す属性項目も収集することが必要となります。例えば業務の種別、適用したOS、ミドルウェア、言語、パッケージ、ツールなどの情報などが挙げられます。目的に照らし合わせて、実績データに影響を与えると思われる属性を決めて収集します。

5.関係者の協力を得る

実績データの収集では、関係者の協力を得ることはとても大切です。その時は、まず収集の目的について関係者間で共有できるよう、関係者を説得する必要があります。この目的が共有されていないと、「やらされ感」が残るだけでなく、収集するデータの精度低下にもつながります。また、経営陣や組織の責任者などから目的に対する理解と実績データ収集への協力を得ると、収集を進めやすくなります。

加えて、目的は前向きであることが大切です。収集したデータを"このプロジェクトは生産性が低い"といったような糾弾の道具として使用すると、データ収集に対するモチベーションは下がり、ひいては正確なデータが収集できなくなります。大切なのは、実績データに一番近い関係者にとって意義があると思えるような目的であり、データ収集の有効性を実感できることです。

とかく収集する側は収集したデータを「どうやって分析しようか」と考えるため、つい収集項目が多く、収集単位も細かくなりがちです。しかし収集項目が多くなりすぎると関係者の負担感も大きくなり、活動そのものが形骸化してしまいます。収集項目は実績データに一番近い人の目線で考えて、有効と思えるものに絞り込むべきです。

蓄積された実績データは、組織や会社の財産です。実績データを蓄積することによって初めて、KKD(勘、経験、度胸)に頼る属人的な見積りから脱却することができます。また、実績データを残すことによって「目線」が形成され、定量的な品質や生産性の目標を設定することができ、改善活動が可能となります。

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見積り能力を組織や企業の強みとして育てていくためには、"結果のフィードバック"と"実績データの蓄積"は必要不可欠です。これはベンダー企業だけでなく、ユーザー企業でも同じです。どのようなシステムを、どのくらいの金額で作り、その効果がどうだったのかという結果を蓄積することは、システム投資額の妥当性を判断する上で必要不可欠な情報です。そしてその情報はベンダー企業から出てくるものではなく、ユーザー企業としての視点で蓄積していく必要があると思うのです。

執筆者プロフィール

藤貫美佐 (Misa Fujinuki)
株式会社NTTデータ SIコンピテンシー本部 SEPG 設計積算推進担当 課長。IFPUG Certified Function Point Specialist。日本ファンクションポイントユーザー会の事務局長を務める。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.3(2008年3月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。