要求仕様の曖昧さをなくすために、業界内で多くの取り組みが行われておりますが、現実には曖昧な要求仕様から見積もらなくてはならないケースが依然として多いのではないでしょうか。その際に重要になるのが見積りの前提条件です。

見積りとは、そもそも不確定な情報から金額や期間を推定する作業です。よって、推定するためには何かしらの前提条件を用意する必要があります。そしてこの前提条件を設定するために必要な作業が"仕様補完"です。

仕様補完とは、要求仕様の曖昧な箇所に対し、見積りが行えるレベルまで内容を穴埋めするための作業です。この結果が見積りの前提条件となります。

要求仕様が曖昧であればあるほど、仕様補完のバリエーションは増えます。よって、前提条件のバリエーションも増え、見積りの幅は大きくなります。上流工程で「幅で見積れ」と言われることが多いのはこのためです。

この仕様補完の作業ですが、システム開発の熟練者は見積りの際に無意識のうちに行っています。「見積りは勘と経験が一番当たる」と言う人は、この仕様補完の作業を見積りの一部と考えているのです。

筆者は決して勘や経験を否定するつもりはありません。ただ、この頭の中で補完された仕様を、見積りの前提条件として記録を残してほしいと考えています。

"仕様補完"は曖昧な仕様と見積りという現実の値を出す作業のギャップを埋める重要な作業です。私はこの"仕様補完"がベンダーの腕の見せ所だと思います。

ユーザーの要望を満たす選択肢を提案するためには、業務ノウハウや過去の開発実績の引き出しをどれだけ持っているかが重要となります。見積りとは異なる世界です。そして、この"仕様補完"の出来・不出来は見積りに大きな影響を与えます。見積りミスを防ぐためには、見積りだけに着目していては不十分です。

ベンダーは"仕様補完"の質を高め、その結果が見積りの前提条件として提示されるよう、努めていかなくてはいけないと思います。"仕様補完"という作業を意識し、その質を上げていくことが、見積りを成功に導くカギを握っていると考えます。そして見積り結果は必ず前提条件とセットであることを、ユーザーもベンダーも認識しなくてはいけないと思います。

執筆者プロフィール

藤貫美佐(Misa Fujinuki)
株式会社NTTデータ SIコンピテンシー本部 SEPG 設計積算推進担当 課長。IFPUG Certified Function Point Specialist。日本ファンクションポイントユーザー会の事務局長を務める。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.1(2007年11月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。