第1回・第2回は「国内O2Oの歴史とその変遷」と題し、国内インターネット黎明期から現在に至るまでの流れや、企業・自治体などによるO2O活用事例を紹介した。第3回目となる今回は飲食業界にターゲットを絞って、その活用方法やユニークな施策などを紹介したい。

既存顧客の再来店促進が肝要

「新規顧客の獲得コストは既存顧客の5倍必要である」という「1:5の法則」は、飲食業界ではより顕著にその傾向が現れると言える。特に、居酒屋チェーンの新規集客の"鉄板"手法は団体客向けに宴会プランの割引クーポンなどを提示するものだが、当然ながら利益率は低下する。

飲食店の利用シーンや価格帯などは常に一定でなく、顧客の嗜好や間柄、宴席の目的などによってもさまざまであるため、広告出稿による予約獲得も難易度が高い。また、顧客生涯価値(LTV)を考慮すると、新規顧客が一度きりの来店であった場合極めて採算性が低い。

それだけに、来店客へ自店舗のサイト・SNS・アプリをアピールし、会員登録やダウンロードを促す店舗は増えており、それらのアクションに至った顧客は再来店の可能性が非常に高い。今後はより一層、オンラインチャネルを活用した顧客への働きかけが重要な意味を持つと言える。

店舗専用アプリが果たす役割とは?

一口にO2Oと言ってもその手段はさまざまだが、数年前までは困難だった来店計測をポイントカードやスタンプカードのデジタル化により可能としたこと、顧客の利用状況などに応じたプッシュ通知による情報発信が可能であることを考えると、店舗専用のアプリがリピート集客に果たす役割は大きい。

つい数年前までは「アプリ開発=フルスクラッチ(独自開発)」であり、初期費用と保守費用の高さから一定規模以上のチェーンでしか散見されなかった。しかし、近年は上述したポイント・スタンプカードやクーポン発行、またはユーザーに対してのプッシュ通知機能など店舗販促に必要な機能を備えた安価なASP型のアプリ開発プラットフォームが浸透し、アプリを導入する企業数も年々増え続けている。

また、これらの施策を一元管理し、顧客の嗜好・動向を可視化して次の打ち手に生かすことができるというマーケティングの視点においても店舗専用アプリの果たす役割は非常に大きい。

ファーストフードやカフェにおけるアプリ展開

ここからは、店舗業態ごとに、特徴的なアプリ導入事例を見ていきたい。まずは、ファーストフードやカフェのアプリを紹介しよう。

吉野家アプリ(吉野家ホールディングス)

ファーストフードにおいては、日本マクドナルドやすかいらーくなどの大手企業によるO2Oの取り組み事例がひときわ多い。そんな中、2016年に新たに提供開始された飲食チェーンの公式アプリの中でもひときわ注目を集めたのが「吉野家アプリ」である。

スプラッシュ画面

ホーム画面

イベントと連動しており、歩数に応じてクーポンなどが付与される

同アプリはメニュー、店舗検索、「50円引き」などの外食企業アプリにおける基本的な機能を備えているが、特筆すべきはスマートフォンに搭載された歩数計機能と連動した「歩く割」だ。アプリ内で行われるイベント内で特定の歩数をクリアすると、店舗で使用できる特定のクーポンを入手できる。全国展開している同社だけに、目標の歩数をクリアしたタイミングでユーザーの近くにある店舗へ誘うことを目的とした秀逸なキャンペーン設計と言える。

スターバックス ジャパン公式モバイルアプリ(スターバックスコーヒージャパン)

吉野家と同様、2016年に新たにリリースされた飲食店アプリの中でも、大手チェーンのアプリ参入ということで話題を呼んだスターバックス。UI自体はシンプルだが、これまで店頭で展開されていた機能を集約し、非常に使い勝手のよいアプリとなっている。

ホーム画面

保有しているスターバックスカードをアプリに登録すると、残高や利用履歴の照会、チャージなどが可能

@店舗検索画面

既存の会員組織「My Starbucks」と連携する形で、ユーザーが保有するスターバックスカードの利用履歴や残高照会またはクレジット決済によるチャージなどが可能であるほか、eGift(メッセージカードにスターバックスのドリンクを添えてオンライン上で友だちに贈ることができるギフトサービス)の購入も行うことができる。

レストラン・居酒屋チェーンにおけるアプリ展開

次に、レストランや居酒屋チェーンの展開例として、当社サービスの利用事例から特色のある企業アプリを紹介したい。

海産物居酒屋さくら水産【公式アプリ】(テラケン)

関東・中部・関西に69店舗(2017年2月時点)を展開する「さくら水産」の公式アプリは、「500円ランチ」として知られる同店のランチタイムに、アプリで店舗内にあるQRコードを読み取るとスタンプがたまる仕組みとなっている。

ホーム画面

「ランチスタンプカード」画面

@所定のスタンプ数を満了すると払い出される「チケット」数により、ワンドリンクサービスなどの特典が受けられる

所定のスタンプ数を満了すると「チケット」が払い出され、ディナータイムの特典に引き換えることが可能となっている。1枚チケットがたまればワンドリンクサービス、2枚たまれば「大量刺盛り」を無料サービス、という具合に、ランチスタンプがたまるにつれディナータイムへの来店意欲を喚起する仕組みとなっている。

同社のアプリ導入の背景や活用方法の詳細については本誌の記事「ランチスタンプ5つでビール1杯サービス!さくら水産がスマホアプリ活用で集客率アップ」も合わせてご覧いただきたい。

カールスジュニア公式アプリ 食事を楽しむ!プレミアムバーガー(カールスジュニアジャパン)

1941年に米国で創業し、南米・東南アジア・ヨーロッパなど広く世界展開するカールスジュニア。同社は米国内ではサブウェイ、マクドナルドなどの日本でもおなじみのチェーンに次ぐ規模を誇るが、昨年3月に1989年以来の"日本再上陸"を果たした。秋葉原・平塚の2店舗のほか、今年4月には自由が丘に3店舗目をオープンする予定となっている。

日本再上陸まもないカールスジュニアがスマートフォンによる販促を行う上で、FacebookやInstagramと共に情報発信の軸として据えたのが店舗公式アプリである。

ホーム画面

ボリューム満点の"プレミアムバーガー"の魅力を伝えるギャラリー画像

@スタンプ満了回数に応じて、シェイクやバーガーの引き換え特典を設定

同アプリは"プレミアムバーガー"と称される、同店の特長でもあるボリューム感のあるハンバーガーの魅力を伝える画像中心の構成となっているほか、スタンプカードを利用した再来店促進施策が行われており、これからの店舗展開につれて新たな施策展開も推進されることが想定されている。

以上、飲食業界4社の店舗アプリを紹介した。業態の多様化や海外チェーンの相次ぐ日本参入、五輪開催に向けての訪日観光客増など、外食業界を取り巻く環境は激変を続けており、各企業における販促・集客課題もさまざまである。

そのような状況にある中、成長を続けるO2O技術の活用により、各社の趣向を凝らした取り組みも年々広がりを見せている。年間約25兆円(日本フードサービス協会「平成27年外食産業市場規模推計について」(平成28年7月発表)より)と言われる外食産業において、今後も続々と増えるであろう新たなO2Oへの取り組みも注目すべき点と言える。

次回は、小売業界におけるO2O推進の具体的な活用事例を紹介したい。

著者プロフィール

谷内 亮介


GMO TECH株式会社 O2O事業部 メディアプロデュース部 マネージャー。大学卒業後、私立大学事務局や広告代理店などの勤務を経て、2013年に株式会社ぐるなびへ入社、ビッグデータ・O2Oを用いた販促商品企画に携わる。2016年3月に当社入社。O2Oアプリ作成ASPサービス「GMO集客アップカプセル」の企画・プロモーション・アライアンスを担当。