プロジェクトにおいて、業務に結びつくコミュニケーションができるかどうかは、リーダーにかかっていると言っても過言ではありません。しかし、年齢やキャリアなど、さまざまなバックグランドを持つ部下たちをまとめていくのは至難の業。前回に続いて、職場のリーダーとして、部下のココロを的確につかんでコミュニケーションをうまく回していくためのコツをお伝えします。

目的意識の共有は必須

「理解ができた」という状態を仮定したとしても、これがすぐに合意に至るケースばかりとは限りません。特に、何のためにそれがなされるのか、あるいは必要となるのかといった目的が提示されておらず、メンバーがこれをシェアしていない場合は、合意が妨げられることがほとんどでしょう。そのような状況下では、リーダーが発するメッセージのすべてが拒否され、コミュニケーションが停止する恐れがあります。

さらに、部下がリーダーに対して「上の言うことだから仕方がない」と不満を感じたまま次のアクションを起こし、それがチームや組織にとってマイナスの結果を生むこともあります。終盤で問題が起きるプロジェクトは、このようなケースが多いはずです。

仮に合意が得られてリーダーのあなたが安心したとしても、まだコミュニケーションは終わっていません。有益な行動へとつながらなければ、今までの段階がどれだけ円滑に行われたとしても、何の意味も持たないからです。むしろ、コミュニケーションに有した時間など、様々なコストが無駄になり、マイナスになることさえあります。つまりリーダーは、メッセージを発信したら部下の行動や進捗をトレースしなければならないのです。さもなければ、部下は間違った作業に時間を浪費し、リーダーの意図とは逆のことを悪気なく、しかも自信を持って行ってしまうことにもなりかねません。

「メッセージの内容は正しく遂行されるだろう」というのは、単なる発信者の期待です。業務命令のようなメッセージばかりではないので、実際の行動がきちんとした形で実施されたかどうかが確認されるまでは、「伝わった」と安心してはいけません。

コミュニケーションの頻度を上げる

コミュニケーションは、リーダーのあなたが発する何気ない一言、あるいはメールを送るたびにスタートします。もしコミュニケーションに問題があると感じるのであれば、本稿で紹介した5つのプロセスをチェックしてみてください。最善のコミュニケーションは、すべての段階で流れるような意思の疎通ができた場合に実現します。プロセスの途中で問題があるとわかれば、事態を悪化させなくて済むはずです。「何となくうまくいってない……」と漠然ととらえるのではなく積極的な対応を取れば、徐々にコミュニケーションが円滑に進むチームへと変わっていくことでしょう。

例えば、無駄話を迷惑に感じて困っている場合、実はマネジメントの分野においては、「上司が職場をブラブラと歩いて話をすることは、組織にとってプラスに働く」とされています。リーダーがこのような行動を取ることを勧める専門家もいるのです。これはコミュニケーションの観点からも理にかなっています。

第3回で紹介した5つのプロセスの様々なミスや遂行具合、部下の体調、悩みなどを総合的に察知しようという高い視点があれば、フラフラと他部署に出かけることは、いざという時に機能します。「無駄話をしながら、実は情報収集を行っている」というのは、できるリーダー達が日常的に実践しているコミュニケーション手法でもあります。

一度に全体の関係性を向上させるのは難しいかもしれません。その場合は、チームのメンバーの中でキーマンとなりそうなメンバーにターゲットを絞り、当面はこのメンバーと日常的にフランクな話ができる人間関係を築く工夫をしてみましょう。信頼関係を構築して、彼を良き理解者として育て、リーダーとチームメンバーとの触媒として機能するようにします。これがうまくいったら、徐々にチーム全体に対象を広げいくことを考えればいいのです。

笑顔が飛び交うチームほど、ストレスがなく仕事ができる環境はありません。それにはまず、リーダーであるあなたのアプローチが必要なのです。

執筆者プロフィール

佐藤高史 (Takashi Sato)
株式会社コラージュ代表取締役。ビジネスコンサルタントとして人事教育・研修プログラムを数多く開発。著書「最強のプレゼンテーション完全マニュアル」(あさ出版)。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.2(2008年1月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。