企業では、コミュニケーション能力が高いことを評価するか、あるいは当然のこととしてとらえるようになってきています。とはいえ、これは簡単なことではありません。だからこそ現代の職場における課題とされているわけです。プロジェクトリーダーは、少なくともチーム内のコミュニケーションを円滑にし、業績につなげる役割を果たさなくてはなりません。今回は、開発の現場で起こっているコミュニケーション改善の糸口を探るために、コミュニケーションが不全に陥りがちな5つのプロセスについて考えてみます。

事例1:無駄話に迷惑してます

私のチームは大変多忙な部署で、それぞれのデスクで皆が無言で黙々と仕事をしています。仕事中、メンバー同士の会話はあまりありません。特に不便を感じることなくこれまでやってきているのですが、最近、業務上で少しつながりのある別の部署のリーダーがフラフラと私のところにやって来て、仕事に関係ない話をしていくようになりました。野球やサッカーの話がほとんどなので、周囲からは私だけ遊んでいるような印象を持たれているような気がします。他部署とのコミュニケーションということで我慢していますが、チーム内の統率の面から考えると正直迷惑です。

事例2:優秀な部下のミスは私が原因?

私の部下に、一度興味を持って仕事に取り組むと大変な集中力を示し、関連の業務などの知識も一気に取得する人間がいます。仕事に取り組む姿勢も評価でき、一緒にチームを組む上ではどちらかというと重宝する人材です。ただ時折、不思議なほどすっぽ抜けるというか……こちらの指示を忘れていることがあります。特に、急な変更などがあった場面での細かいミスが目立ちます。たまに忘れることがあるのは仕方がないとは思いますが、頻度が多いのが心配です。なぜ集中力もあって能力も高い彼がミスをするのかが私にはわかりません。もしかすると指示の出し方など、私の上司としてのコミュニケーション能力に問題があるのではないかと悩んでいます。

望ましいプロセスを理解する

コミュニケーション不全について考える前に、そもそも「円滑なコミュニケーション」とはどういうことなのかを一度整理してみましょう。
以下はとても簡単な分類ですが、マンツーマンの会話はもちろん、どのようなコミュニケーションでも当てはまるものです。コミュニケーションの不全は、それぞれのプロセスが不完全な時に発生します。まずはこの基本となる5つのプロセスを知ることで、コミュニケーションの問題を解決するための糸口をつかんでみましょう。

1.メッセージの送信

・メールによって何かを依頼する ・郵便を投函する ・伝言メモを机に残す ・出先から会社に電話で指示する

このように、何らかのメッセージを発信することでコミュニケーションは始まります。このようにバーバル(言語)なメッセージの発信だけではありません。例えば、「おぅ!」という台詞と同時に笑顔で笑いかけることも1つのメッセージです。ノンバーバル(非言語)のメッセージを含む、曖昧な形でのメッセージ発信も存在します。

2.メッセージの受信

・メールを開封する ・伝言メモを見る ・電話で声を聞く

これらのプロセスが「受信」になります。 この段階では、内容が必ずしも理解されているわけではありません。あくまでもメッセージ送信者から受信者へ手渡される物理的な条件が完了しただけです。

例えば、メールが開封されたという事実が確認されたとしても、それは物理的に届いたということが証明されるだけで、受け手が理解したかどうかは別問題です。

3.メッセージの理解

受信したメッセージの内容を理解した段階です。この理解を深めるために、多くの質問が繰り返されたり、メールや書類のやりとりが行われたりして、コミュニケーションのプロセスが複雑化していきます。いずれにせよ、円滑なコミュニケーションを実現するための分岐点になるのが、この「理解」というプロセスです。

4.コンテンツの合意

理解したメッセージの内容に納得し、同意した状態です。これで次の行動に移る障害もなくなります。

「メッセージを理解したが合意できず、なかなか行動に移せない」ということはなくなりますが、緊急性がない場合は、合意されないままの状態で放置されてしまう危険性がある段階です。

5.プラス行動へ変換

これは理解・同意したことに対してアクションを起こすプロセスです。それまでの4つのプロセスにどれだけ注力しても、最終的にチームにとってプラスとなる行動につながらなければ意味がありません。「わかっているけど動かない」人、周囲にいませんか? これは、表面上は「理解していない人」とまったく同じ存在です。

執筆者プロフィール

佐藤高史 (Takashi Sato)
コラージュ代表取締役。ビジネスコンサルタントとして人事教育・研修プログラムを数多く開発。著書「最強のプレゼンテーション完全マニュアル」(あさ出版)。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.2(2008年1月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。