こんにちは。11月に入り、徐々に冷え込んできましたね。ウィンタースポーツをされる方にとっては、いよいよシーズン到来、ワクワクされているのではないでしょうか? ウィンタースポーツではありませんが、私はランニングをするので、これからが大会シーズンで楽しみが増えてきます。寒い季節こそ、身体を動かしたいものです。

今回は、3D CADツールの最新動向として、私が参加したイベントのお話をしたいと思います。

先日、都内で開催された「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2017」に参加させていただきました。午前中が基調講演、午後は多くの分科会が設けられていました。聴講したい分科会がたくさんありましたが、身体は一つしかないので、その中でも興味深いタイトルのセッションを聴講してきました。

ちょうどこの時期にSOLIDWORKS の最新バージョンである2018がリリースされたばかりとのことで、新機能が紹介されていました。

私の主観も入っていると思いますが、ミッドレンジレベルの3D CADの技術レベルは、SOLIDWORKSとAutodesk Inventorが双璧を成していると思います。市場への浸透という意味ではSOLIDWORKSが圧倒的なシェアを誇っていますが、CADの機能という視点では、この2製品がトップを争っている印象です。

その証拠にここ数年来、両製品の新機能は、ほぼ同じものが追加されています。特に顕著なのが「関連性を保ちながら他社のCADデータをダイレクトに読み込む機能」と、設計の最適化機能、つまり「トポロジー最適化(ジェネレーティブデザイン)」です。

ジェネレーティブデザインについては以前、この連載の第6回でご紹介しました。より最適な形状を定義するために人間が考えるアイディアの限界を超えた形状を提案してくれる機能として注目されており、実用が期待される機能です。

同社が公開している新機能解説の動画では、部品の両端の留め付け位置の大きさは変えず、その間のパーツの形状を最適化した結果を提示する様子を見ることができます。

そして、個人的に最も気になった機能は、3D図面化機能です。SOLIDWORKS MBDというモジュールを使用して実現するもので、3Dモデルに対し、製造にデータを渡すにあたって必要な情報(PMI:Product Manufacturing Information)を直接記入し、ペーパーレスを実現します。

SOLIDWORKS MBDによる3D図面(SOLIDWORKS 2018 体験版サンプルモデルを使用)

3D CADを使用して設計していても、最終的に製造側に渡すデータは2D図面である…というケースが依然として一般的です。拝聴したセッションのタイトルが「The 図面」というものだったせいもあると思いますが、聴講者の中で2D図面による出図はまったく行っていない、3Dのみを流通させているという方はひとりもいらっしゃいませんでした。

設計現場にはある程度3D CADが普及していますが、製造の現場、特に大手企業から製造を請け負う企業においても完全に3D化を実現するには、まだまだ高い障壁(費用対効果など)があります。

しかし、3D図面への期待値は確実に大きくなっているようです。(参考:「SOLIDWORKS 2018」、11月より国内販売 - トポロジー最適化を実装) 今後、この機能の充実が期待されます。

しかし同時に、製造のための情報を流通させるにあたり、別のポイントの整備が必要です。図面の役割は、JIS規格(JIS Z 8310) によって定義されています。

5 図面の具備すべき要件
図面は,要求事項を達成するために,次の要件を満たしていなければならない。
a)要求される情報を含む。製作図の場合には,対象物の図形とともに,必要とする大きさ・形状・姿勢・位置・質量の情報を含む。必要に応じて,更に材料,加工方法,表面性状,表面処理方法,検証方法,図面履歴,引用規格・文書,図面管理などの情報を含む。

つまり、製造にあたって必要な数値情報のみならず、使用する材料や加工についての指示なども必要です。ただし、このJIS Z 8310は2D図面を想定した規格になっています。そのため、現在、日本自動車工業会(略称JAMA)では3D図面に適した規格を制定すべく活動が行われています。

※日本自動車工業会(JAMA)とは:乗用車、トラック、バス、二輪車など国内において自動車を生産するメーカーを会員として設立され、自動車メーカー14社によって構成されている一般社団法人です。その事業内容の中に、「3D図面標準化、CADデータ品質・3D図面長期保管のガイドラインなど、自動車業界における電子情報の情報化・標準化の基本方針について検討し、国際協調・業界連携の促進を図る」というものがあります。

製造業の中でも自動車工業は総合産業であり、その規模が全就業人口の約10%弱を占めており、何より自動車は人命に直結する製品であることなどから、ものづくり分野全体への影響力は甚大なものです。(日本自動車工業会HPより)

3D図面のJIS規格制定に関する活動の状況は、こちらの資料がわかりやすいと思います。この資料では、2019年までの計画が記されています。複数のハイエンド3D CADを使用して、さまざまなテストが行われているようですが、検証の結果によりJIS規格が正式に制定され、ミッドレンジ3D CADでも対応可能になれば、3D図面は大きく普及するのではないかと思います。

今回は、CAD初心者向けではない事項にも一部触れましたが、3D CADで設計したデータの後工程でも、3Dデータを流通させるという観点での現状をお伝えしてみました。

こうした動きが進めば、2D図面を作り直すという二度手間の工数を減らしたり、設計情報の伝達をスムーズに行えたりといったメリットによって、より短い時間で製品を市場へ投入できるようになり、企業にとって大きなアドバンテージになるはずです。

図面の流通は設計部門だけの話ではなく、受け取る側の製造部門やその協力会社の体制を整える必要があるため、まずは大手企業からということになると思いますが、3D CADの普及にもかなり時間がかかったので、少しずつ前進できれば良いのではないでしょうか。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。