こんにちは。ゴールデンウィークも終わり、すっかり初夏の陽気になった今日このごろですが、最近は春や秋の期間がとても短くなっている気がします。1カ月前は桜が咲き始めてまだ肌寒かったのに今はもう太陽が眩しいですね。急な気候の変化は体調を崩しやすいので、皆さまお気をつけください。

ということで今回は久しぶりに「よく見かけるけど意味がわかってない言葉、ありませんか?」シリーズです。

このところ、3D界隈のいろいろを見ていると、「リバースエンジニアリング」という言葉が頻繁に出てくるようになりました。では具体的にこれはどのようなことを示すものなのでしょうか?

Wikipediaではいろいろな分野での解釈によるリバースエンジニアリングが説明されていますが、昨今のものづくり関連の話に出てくるのは、やはり下記の部分についての言及が主なものです。

「ものづくりにおけるリバースエンジニアリングとは、(中略)既に現物がある製品などの形状データを測定し、それをもとにCADデータを作成する(“起こす”)ことである。」(引用:Wikipediaより)

すでに物理的に存在しているものの形状データを「『測定』して、それをもとにCADデータを作成する」という作業が、最近の3D CADではとても簡単に行うことができるようになっています。

ところで、どのような目的でもう存在している物理的な実体を3Dデータにするのでしょうか?

さまざまな用途がありますが、代表的なものとしては以下のものがあります。

(1)人体に装着するような製品を設計する場合に人をスキャンしたデータを利用して、より自然に装着できる形状を設計する。
(2)図面や設計データが残っていない製品のバージョンアップ版製品を作成したい場合に既存形状をデータ化し、そこから設計変更を加えていくという作業をする。

これらがすべてではありませんが、いずれにしても何か新しいものを作る際に既存データを再利用することをリバースエンジニアリングと呼んでいます。

(1)の用途の場合は、CAD上に読み込んだSTL形式のメッシュデータを参照して設計検討を開始します。 (2)の用途の場合は、読み込んだメッシュデータを各CAD製品が持つ機能を利用してサーフェス化またはソリッド化して設計を進めます。

SOLIDWORKSやAutodesk Inventorでは、直接STLデータを読み込んで、その表面をサーフェス化できる機能があります。また、Fusion 360では、「メッシュからBRep」という機能により、メッシュデータをソリッド化する機能があります。

話は戻りますが「物理的に存在しているものの形状データを測定する」行為についてです。通常は3Dスキャナーを使用して対象物を3Dでスキャンし、そのデータを何らかのソフトウェアで表示して「測定」作業をはじめとして再利用します。その3Dスキャナーですが、現在は低価格で手に入る機種が増え、以前に比べると手軽にスキャニングできるようになりました。

また、スキャンしたデータは、何らかのソフトウェアで受け取るわけですが、以前は専用のソフトウェアが必要でした。ところがこれも最近は3D CAD で3Dスキャンしたデータを直接読み込んだり、そのデータを修正したりすることができるようになってきました。手軽に、そして、容易に既存の物理的な形状を再利用できるようになりました。

スキャナーのメーカーやその種類によって、エクスポートできるファイル形式はいろいろとありますが、3Dスキャンしたデータにおいてよく使用されるファイル形式の一つにSTLがあります。STL形式データと言えば、この連載の第5回でも紹介しました。第5回の時は3D CADで作成したデータを3Dプリンタに渡す目的での用途をご紹介しましたが、このような用途でも使用します。

例:Fusion 360を使用した例

(1) 3DスキャンしたデータをSTL形式でエクスポート
Fusion 360では、インポートしたSTLをはじめとしたメッシュデータを編集・計測できるツールがある。
Rocking Chair by MicrosoftStore

(2)-1 「メッシュからBRrep」というコマンドを使用して全体を一気にソリッド化する。元の形状を可能な限り原形のまま利用したい場合に便利な機能

(2)-2 メッシュ形状を参照して通常の手順でソリッド形状を作り上げる。あくまで参照として使用し、新しい製品を作りたい場合の手法。

その他の現実に存在するものをキャプチャする方法として、対象物を360°あらゆる角度から同時に複数の写真を撮影することで、それらの写真を組み合わせて3Dデータ化するという方法もあります。代表的な製品は「Autodesk Remake(旧:123D Catch)」で、この場合もSTLなどのメッシュデータの形式で出力することができ、同様に設計のための参照として使用することができます。

ただし、この方法の場合はきれいなデータを作りたければ写真の数は多ければ多いほど良く、さらにすべてのカメラのシャッターを同時に切らなければならないのでテクニックが必要になります。

人物の3Dフィギュアを作ってもらえるというショップの広告などを見たことは無いでしょうか?スタジオ内に多数のカメラを360°囲むように並べてあるスタジオで写真を撮って、そのデータを元にフィギュアを作るというサービスです。この写真では回転台の上に人が乗って写真撮影をしていて、カメラはそんなにたくさん使っていませんが、以前、私が3Dフィギュア製作をしてもらった際は、カメラをあらゆる方向に固定したスタジオに、一眼レフカメラが多分100台ほど並んでいました。

3Dフィギュア化できるデータを取得している様子(「DMM.make 3D PRINT TOKYO Factory」取材記事より)

おまけですが、私の写真から作ってもらったフィギュアがこちらです。最新テクノロジーを利用することでこのような楽しい使い道もあるんですよ!

著者自身を3Dスキャンして作った3Dフィギュア。

ということで、最後はCADや設計の話から外れてしまいましたが、今回のお話は以上です。また次回をお楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。