こんにちは。寒さがピークの時期ですが、いかがお過ごしでしょうか?相変わらずインフルエンザが流行っていますのでお気をつけください。

さて前回までちょっとCADそのものからは外れて設計情報を伝えるための規則、表現方法についてお話していましたが、今回はまたCADの話に戻ります。

第7回の終わりに、ダイレクトモデリングについてもそのうち…と書いていましたので、ちょっとお話してみようと思います。

そもそも、何年か前までの3D CADは、フィーチャーベース モデリングかダイレクト モデリングか、どちらか片方のみができるという仕様が一般的でした。代表的な製品としては以下のものがあります。

■フィーチャーベース モデリングがベースのCAD ・PTC Creo Parametric(旧Pro/ENGINEER) ・NX ・SOLIDWORKS ・Autodesk Inventor ・SolidEdge など

■ダイレクトモデリングがベースのCAD ・PTC Creo Direct(旧CoCreate OneSpace Designer) ・SpaceClaim ・iCAD SX など

各CAD製品のベンダー企業は、当たり前ですがどこの会社も「自社製品のモデリング手法が最強である!」と宣伝してきました。しかし年月の経過とともに、フィーチャーベースの良いところ、ダイレクトの良いところを各社認めるように……というか、ユーザーからの熱い要望に後押しされ、フィーチャーベースモデリングが主体のCADでも、部分的にダイレクトモデリングの機能も搭載するようになりました。

このようにして、現在はフィーチャーベースとダイレクトのいいとこ取りができるというのが主流になってきています。しかし、ダイレクトモデリングがベースとなっているCADに関しては、ダイレクトモデリングのみで突き進んでいるものが多い印象です。

フィーチャーベース モデリングがベースのCADでは、基本的に従来の手法でモデリングをし、部分的に必要に応じてダイレクトモデリングを併用することを推奨しているようです。なお、シーメンスPLMソフトウェアのNXとSolid Edgeの場合は独自の「シンクロナス テクノロジー」を採用し、後付けで拘束条件や設計ルールを追加できるようになっています。

ダイレクトモデリングの方が合っている設計過程での状況は、例えば設計初期の試行錯誤を繰り返す構想段階、または出図直前の微調整時などです。 構想設計の段階では形状を作ってみては検討し、良くない場合は作り直して再度検討、といった作業を繰り返します。そのような場合は直接形状をいじれるダイレクト モデリングの方がすばやく操作ができて便利です。また、出図直前にちょっとだけ大きさを変えたいといった場合にも、履歴に引きずられること無く調整ができるので工数を節約することができます。

では、フィーチャーベースと比較しやすいように、第7回の説明で使ったAutodesk Inventorのモデルを使用します。フィーチャーベースの場合はモデリングの履歴を残すことが前提となっており、その前後関係、つまり親子関係による関連性をもとに理路整然としたモデリングをすることになります。

以下の図は第7回で使用したものです。フィーチャーベースの手法で左の状態から右の状態に変更する手法として、フィーチャーの順番を入れ替えるという方法をご紹介しました。

この例のようにすんなり変更できればよいですが、もっと複雑な部品でフィーチャー同士が複雑に関連付いている結果、このようにすんなりと変更できないというケースが出てきます。そのような時には、ダイレクト モデリング手法を利用するという選択肢があります。以下にその例をご紹介します。

例:穴を開けた後にシェルを追加したところ、穴にも壁ができてしまったので「ダイレクト編集」を使用して、穴の壁を無くす操作を実行します。

(1) 「ダイレクト編集」を使用して平面を移動させます。その前段階として、移動距離をあらかじめ計測します。この場合は19mmです。

(2) 「ダイレクト編集」コマンドを使用して、面を19mm移動させます。

(3) 操作をした結果、穴の壁がなくなりました。フィーチャーとして「ダイレクト編集」というものが追加されているのが確認できます。

このInventorの場合、「ダイレクト編集」が履歴に残るので再編集できますが、先ほどの平面の位置を元に戻したりといったやり直しができるわけではなく、さらに操作を追加するのみとなります。つまり一度実行した操作をもとに戻すことはできません。これがダイレクト モデリング手法を使用した場合の特長です。

ただし、この「ダイレクト編集」フィーチャーを削除すれば、面の移動自体を実施しなかったことにすることができます。つまり、ダイレクト編集実行前の状態に戻すことは可能です。

Inventorの場合はこのように3Dの形状を直接動かす機能を「ダイレクト編集」と呼んでいますが、このあたりはCADによってさまざまだと思います。同じオートデスク製品でもFusion 360の場合は「移動」コマンドで実行しますが、その中でやっていることはまったく同じ、結果も同じものが得られます。

ここまで見てきたように、どのベンダーのCAD製品でも、このようにダイレクトに形状を編集できる機能を搭載し始めています。そのもう一つの理由は、3D CADを使う企業および人々が増えた結果、CAD同士のデータのやり取りをする機会が増えたことがあると思います。

自社が使用しているCADと異なるCADで作られたデータを受け取る際には、ほとんどの場合、中間形式ファイルでのやり取りになります。中間形式ファイルではフィーチャーの情報はなくなってしまい、ただの3Dの立体になってしまいますので、受け取ったデータをさらに編集したい場合はダイレクトに面を移動したり、尺度を変えたりするなど形状操作ができる機能がとても役立つことになります。以上、ダイレクトモデリング手法を使用した場合のメリットをご紹介しました。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。