「公差」は「ある程度ずれても良いよ」という数値

こんにちは。本連載「公差って何?これだけは知っておきたい3D CAD知識」はこれが年内最後の掲載となります。

今回はようやくこの連載タイトルにある「公差」についてお話していきたいと思います。

「公差」と言っても、あらゆる意味合いの公差があり、その用途もさまざまです。そして掘り下げれば掘り下げるほど、底が見えないぐらい奥深いものです。そこでまずは「そもそも」のお話をしていこうと思います。

例えばこのような部品を作るとします。

この部品の幅寸法は、100mmとなっています。つまり幅はこの大きさに加工してください、という設計からの指示です。この数値はCAD上では"100.000(∞)mm"といった理論的に正確な数値で描かれています。

しかし、実際加工するにあたり、厳密に100.000...mmに仕上げることは不可能です。頑張れば限りなく近付けることはできますが、近付けようとすればするほど手間がかかり、困難です。ということは、この部品を作るためには非常にコストがかさむということになり、現実的ではなくなります。そこで通常は「ある程度ずれてもいいですよ」という意味の許容差を設けることになっています。これを「公差」と呼びます。

では、その公差はどの程度の数値を設定すればよいのでしょう?実はちゃんと決まりがあるのです。

日本には「日本工業規格」通称JISと呼ばれるものが制定されており、製造物はこの規格に準拠して作ることになっています。このJISは、工業標準化法に基づき制定される国家規格です。製造者が各々個別の判断でものを作ることによる秩序の崩壊を防ぐために国レベルの規格を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することを目的として制定されています。なお、国際的にはISO(International Organization for Standardization: 国際標準化機構)と呼ばれる国際規格がありますが、JISはこのISOにも準拠するようになっています。(日本工業標準調査会(JISC)HPより引用。JISCは経済産業省に設置されている審議会で、工業標準化法に基づいて工業標準化に関する調査審議を行っています。)

このJISの中で、定義されているものの1つが公差の設定基準です。公差と言ってもあらゆる定義方法があり、その中で最も基本的なものは、「普通公差」です。JIS規格は項目ごとに記号番号が振られており、普通公差は JIS B 0405 に定められています。寸法値や求める精度により、設定する公差が定められているのです。ここでは詳細は省きますが、例えば図の部品の幅寸法は100mmなので、この長さの公差値は中程度の精度の場合、±0.3と定められています。つまり、99.7mmから100.3mmの範囲で仕上げればOKということです。

次に、この図を見てください。高さ寸法60の後ろに小さい文字で数値が記載されています。幅寸法100に対しては、何も記載されていません。

これは、100に対しては「普通公差を適用してください」という意味になります。普通公差でよい寸法には特に何も記載しません。

そして、60に対しては「添えてある数値の公差で加工してください」という意味になります。つまりこの場合、上限が0、下限が-0.3、つまり59.7mmから60.0mmの間に収めなければならないということです。

このように、普通公差とは異なる値の公差を設定したい場合は、個別の寸法値に対して公差を添えることで指示をします。この場合の設定する値は、その部品の機能に応じて設計者の判断で設定します。この60mm幅の場合はプラス方向に膨らんでは困るという判断で、プラス方向には大きくならないように制限する数値を設定したということになりますね。

では今度は、穴の寸法に注目してみましょう。

個別の公差値以外に"H7"と記号が記載されています。これは「はめあい」というものを示す記号です。俗に「インロー」と呼ぶはめあい部、つまり凸と凹を組み合わせる箇所の公差を厳密に定義する場合に使用します。例えば軸を穴に入れる箇所や、蓋と入れ物の嵌合部などに使用します。

ある部品の穴に別の部品の軸を入れる場合に、その軸は回っても良いのか、軸を入れたら固定状態にすべきものなのか、を考慮してはめあい公差を設定します。回っても良いのであれば多少緩めにする必要がありますし、固定にしたい場合は隙間が無いぐらいきっちりと嵌め合わせなければなりません。このような条件ごとの公差値が、JISによって詳細に設定されています。

はめあい公差については次回に詳しくお話していきたいと思います。

どのような公差を設定するにしても、その公差値の判断基準は製品の性質によるので設計者の判断になります。限りなく基準寸法に近付けるのが理想ですが、あまりに精度を追い過ぎると加工に時間がかかります。機械では設定しきれない場合は手作業で仕上げるということもあります。その際、例えばちょっとしたミスで削り過ぎてしまうとやり直しができないので、改めて同じ材料を手配して作り直しということにもなりかねず、材料費がさらにかさむことになります。したがって、許容できる範囲で可能な限り広く公差を設定した方が良いということになります。

なお、今回ご紹介している公差のお話は「金属の除去加工(metal removal)又は板金成形(forming from sheet metal)によって制作した部品の寸法に適用する(JIS B 0405)」というものですので、例えば樹脂材料を使って3Dプリンタで作るものに関しては適用外です。

そもそも大半の、特に個人でも購入できるレベルの3Dプリンタは、精密な精度を出すことは困難ですので、3Dプリンターで製作することが前提であるにも関わらず、ある程度の精度を出したい場合はモデリングの際のサイズを調整するのが一般的です。業務用の金属材料を使用する3Dプリンタは、プリント後に仕上げ加工をする工程用のマシンと一体になっている機種が大半で、JIS規格に適合する詳細な精度を出すことは可能になっています。

では年内の連載はこれでで終了です。年明けにまた再開しますので、お楽しみに!ではちょっと早いですが、みなさま良いお年をお迎えください。

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。