マックスプランク研究所、カリフォルニア工科大学、バーミンガム大学などの国際研究チームは、銀河の中心に存在していると考えられる超大質量ブラックホール同士が合体することによって生じる重力波を今後10年以内に観測できる可能性があるとの予測を発表した。研究論文は「Nature Astronomy」に掲載された。

パルサーが発する規則的な電磁パルスのわずかなずれを検出することで、銀河中心に存在する超巨大ブラックホール同士の合体に由来する重力波を観測できる可能性がある(出所:Nature Astronomy, DOI:10.1038/s41550-017-0299-6)

ふたつのブラックホールの合体によって発生した重力波(重力の作用による時空間の伸び縮みがさざ波のように宇宙を伝わっていく現象)は、米国のレーザー干渉計重力波観測所(LIGO)で2015年9月に初めて観測され、その後2015年12月、2017年1月、同年9月にも観測されている。重力波の存在は、一般相対性理論にもとづいてアインシュタインが約100年前に予言していたものであり、この成果に対して2017年のノーベル物理学賞が与えられている。

これまで観測された重力波の発生源となったブラックホールは、太陽の数十倍程度の質量をもっていると考えられている。これに対して、天の川銀河を含む多くの銀河の中心に存在しているとされる超大質量ブラックホールの質量は、太陽の数百万倍から数十億倍といった桁違いに巨大なものである。

ふたつの銀河が接近し衝突合体して新たな銀河ができる際には、銀河の中心にある超大質量ブラックホール同士も合体してひとつになり、このとき強力な重力波が発生すると考えられている。超大質量ブラックホール由来の重力波を分析することで、銀河やブラックホールの進化について新しい知見が得られると期待されている。

超大質量ブラックホール由来の重力波は強力なものであるが、その波の周波数は現在運用されている重力波観測所(米国LIGOや欧州Virgo)で観測できる周波数帯からは外れている。その検出にはパルサーを利用する方法が有効であると考えられている。

パルサーはパルス状の電磁波を発している天体であり、その電磁パルスの周期が天体によって数ミリ秒~数秒程度で極めて規則的で安定しているという特徴がある。地球とパルサーの間の宇宙空間を重力波が通過するときに、時空の伸び縮みによってパルサーの発する電磁パルスのリズムがわずかに変わると考えられており、このパルスの変化を検出することで重力波を観測できるという。

研究チームは今回、超大質量ブラックホールのペア(ブラックホール連星系)を宿している可能性がある近傍の銀河をリストアップし、これを近傍にあるパルサーの分布図とつき合わせることで、超大質量ブラックホール合体に由来する重力波を観測できる確率がどの程度あるかを計算した。その結果、今後10年以内という短い期間に実際にこうした重力波を検出できる可能性があることがわかったとしている。

また仮に、今後も超大質量ブラックホールの合体に由来する重力波が検出されない場合には、その理由が「ファイナルパーセク問題」と呼ばれる宇宙物理学上の問題に関係しているとも考えられている。

ファイナルパーセク問題とは、銀河中心の超大質量ブラックホールのペア間の距離が1パーセク(約3光年)程度まで近づくと、周囲の星との力学的関係から、お互いにそれ以上近づいて合体するのに宇宙年齢よりも長い時間がかかるようになってしまうため、事実上ブラックホール同士が合体することはなく連星系のままとどまるとする理論である。超大質量ブラックホール同士の合体に由来する重力波が実際に観測できるかどうかによって、ファイナルパーセク問題に関する検証も進むと期待できる。