「越境する」をテーマに科学技術振興機構(JST)が主催する国内最大級の科学フォーラム「サイエンスアゴラ2017」が24日から3日間、東京・お台場地域のテレコムセンタービル(東京江東区青海)で開かれる。12回目の開催となるサイエンスアゴラは「科学と社会をつなぐ広場」(古代ギリシャ語で「アゴラ」は広場の意味)となることを目指して実施され、今回のテーマ「越境する」は2017年から掲げるビジョン「科学とくらし ともに語り 紡ぐ未来」の下に設定された。「現在の多様な問題を解決するためには一つの学問分野、立場、世代の知恵だけでは対応できず、さまざまな壁を越えて人々の知恵を結集する(紡ぐ)必要がある」との主催者の問題意識に基づいている。

写真1 「サイエンスアゴラ2017」の会場になる東京・お台場地域のテレコムセンタービル

初日の24日は、2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏による「基調講演」や、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の重要課題である貧困やジェンダーの問題をテーマにした「キーノートセッション」などが予定されている。期間中、人工知能(AI)やゲノム編集など最先端科学をめぐる諸問題を討議する6つのキーノートセッションが行われる。また親子連れや若い人を含めた一般市民も楽しめるよう工夫された大学、研究機関出展の企画も進行する。講演やセッションを含めた多彩な企画は約150を数え、主催者はこうした場を通じて研究者と一般市民の間で、また分野が異なる研究者の間で「越境した」交流や対話が盛んに行われることを期待している。

24日は午後零時45分開会。開幕セレモニーの後、ユヌス氏とインドネシアのガジャ・マダ大学前学長のドゥイコリタ・カルナワティ氏による基調講演が始まる。ユヌス氏はバングラデシュのグラミン銀行を創設し、貧しい女性らを主な対象に無担保、低金利で小額融資を行う仕組みを生み出し、世界の貧困問題撲滅に向けた活動を行ったことで知られる。カルナワティ氏は学生・教員と地域コミュニティとの協力・協働により、画期的な地すべり早期警戒システムを構築して地域の減災に貢献した。ユヌス氏は「3つのゼロの世界を達成するテクノロジーとソーシャルビジネス」、カルナワティ氏は「科学者の社会的責任としての挑戦」とそれぞれ題して講演する。国内外の深刻な問題と正面から向き合い、取り組んできた経験から、多くの課題を抱える現代にあって、異なる分野、多様な世界の人々が「越境」して問題解決するための知恵が語られる、と期待されている。

キーノートセッションは「貧困×ジェンダー」「科学で持続可能な未来都市をつくろう」といったSDGsの達成のために今何が求められているか、を議論するセッションやAI、ゲノム編集と生殖医療という最先端科学と社会の関わりのあり方を問うセッション、さらに発達障害支援という社会課題を正面から扱うセッション、生命と宇宙探査という興味深いテーマを取り上げたセッションが予定されている。

これまでのサイエンスアゴラは同じお台場地域の「日本科学未来館」を中心に開催されてきたが、今年は近隣するテレコムセンタービルが会場。会場内には多彩な展示ブースが並び、来場者が当日参加できる楽しい企画も用意されている。

1階の「アゴラエリア」では「お笑い数学ネタライブ&数学大喜利チャレンジ」が「日本お笑い数学協会」によって3日間行われる。数学をもっと楽しんでもらおうという主催者が企画したユニークな参加型イベントだ。北海道大学の科学コミュニケーターなどの育成部門 「CoSTEP」は25、26の両日、科学に関する素朴な「問い」やそれに対する「答え」を参加者に考えてもらうゲーム感覚の企画を予定。東北大学東北メディカル・メガバンク機構は3日間、がん治療中の母親を巡る家族のミニドラマを上映しながら遺伝学的検査について考えてもらう企画を、また「高専-長岡技大連携グローカルPJ」は26日にSDGsをより多くの人に考えてもらおうとゲーム仕立ての「親子でチャレンジ!-17の世界目標を通じて地域課題をクリアしよう」をそれぞれ予定している。

このほか「どこへ向かうの?ビッグサイエンス」(26日、高エネルギー加速器研究機構)、「温泉と地熱発電を科学する!」(24日、総合地球環境学研究所)、「金閣寺のきらめきは漆のおかげ」(25・26日、チーム漆サイエンス)、「復興期における被災地の課題と科学コミュニケーション」(25日、ふくしまサイエンスぷらっとフォームspff)なども注目企画だ。

今年のサイエンスアゴラについて企画担当者は「私たち一人一人が心豊かに生きていくために科学技術をどう取り入れていくのか、科学技術には何ができるのか、学問分野、立場、国、文化、世代の壁を越えて考える場になってくれれば嬉しい」。また別の担当者は「これから私たちが何をしなければならないのか、多様な人々が集まり、語り合う場をどう作っていけばよいか、今年できることは精一杯やってきた」と企画内容に自負をのぞかせながら多くの来場者を期待している。

画像 「サイエンスアゴラ2017」のチラシ

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