ジョンズ・ホプキンズ大学、メリーランド大学、米陸軍研究所(ARL)の研究チームは、切断や水没、弾道衝撃など、使用中の深刻なダメージにも耐えられる安全性の高いフレキシブルなリチウムイオン電池を開発したと発表した。主に戦場など過酷な環境下での使用が想定されている。研究論文は「Advanced Materials」に掲載された。

電池の動作テスト中の切断・水没実験(出所:ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所)

リチウムイオン電池の安全性を高める方法のひとつとして、発火の危険がなく毒性の低い水系電解質の使用が考えられる。しかし、水系電解質は電位窓(電解質が酸化還元反応による分解を起こさない電圧範囲)の幅が1.2V程度と狭いため、高電圧・高エネルギー密度が求められるリチウムイオン電池には適さないとされてきた。

ただし、最近になって、water-in-salt(WiS)などと呼ばれる高濃度の水系電解質が開発されたことで、電位窓が3.0V以上に広がり、窓の狭さの問題が解消された。これによって水系電解質を使ったリチウムイオン電池の作製が可能になってきた。

今回の研究では、WiSタイプのゲル高分子電解質を用いて、フレキシブルなリチウムイオン電池を開発した。電極材料には正極にも負極にも同じフルオロりん酸リチウムバナジウム(LiVPO4F)を用いる対称性電池とした。

動作中の電池に空気キャノンで繰り返し衝撃を与える実験。この間も電池は正常に動作を続けたという(出所:ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所)

研究チームは、この電池の動作テスト中に、セルを切断したり、海水に浸したり、弾道衝撃試験にかけたりといった厳しいストレスを与える実験を行った。その結果は、電池の動作停止や故障が起こらなかったばかりか、ダメージを受けた後ももとの性能を維持し、モーターを回転させるだけの電力供給を続けることができたという。

このような極めて高い安全性は、WiS電解質において水が高濃度の塩と強く結合しており、また電解質がやや疎水性であるという性質に起因しているとする。

今回試作された電池は、エネルギー密度141Wh/kg、出力密度20600W/kg、出力電圧2.4Vという値を4000サイクル以上の充放電で実現している。研究チームは今後、さらに安全性とエネルギー密度の向上を目指していくとしている。