東北大学(東北大)は、ショウジョウバエの脳回路の雌雄差の研究を通じて、遺伝子のオン・オフを司る1つのタンパク質が、女性脳と男性脳の切り替えスイッチであることを突き止めたと発表した。

同成果は、同大 大学院生命科学研究科の山元大輔 教授の研究グループによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。

mALニューロンに於けるTRF2の分子レベルでの作用(上段)と細胞レベルでの効果(下段)。FruMが存在するときには、FruMの標的遺伝子であるrobo1の転写をFruMとともに抑制する。Robo1タンパク質は同側神経突起の形成を抑制するので、robo1の転写が抑制されると同側神経突起の形成が起こる(左)。FruMがないときにはTRF2はrobo1遺伝子の転写を促進するため、同側突起は形成されない(右) (出所:東北大学Webサイト)

女性と男性は、同じものを見たり聞いたりしても、受け止め方が異なる。これは脳の回路の組み立て・働き方が異なることが原因であると考えられているが、どのような仕組みによって脳の違いが生じるかは明らかにされていなかった。

今回研究グループは、脳内で性フェロモンの検出に携わっているmALという脳細胞が雄に固有の突起(雄型突起)を持つことに着目して、この突起の有無を左右する遺伝子を探した。その結果、TRF2と呼ばれる雌雄共通のスイッチタンパク質が、その鍵を握っていることが分かった。

TRF2は、雌の脳では雄型突起を抑制する遺伝子の読み取りをオンにして、脳細胞を雌型にする。雄の脳では、雄型突起抑制遺伝子の読み取りを低下させる雄化タンパク質、フルートレス・エム(FruM)の援軍として働いて、抑制遺伝子をほぼ完全にオフにする。その結果、雄型突起は雄の脳細胞だけに作られる。

こうして、TRF2の遺伝子読み取りに対する働きに二面性があり、雄化タンパク質、FruMのない時にはオン・スイッチ、FruMのある時にはオフ・スイッチとして働くこと、そしてこの二面性によって、脳が雌型になるか雄型になるかが決まることが分かった。

研究グループは同成果に関して、TRFはヒトの遺伝子の読み取りでも大きな働きをしていることから、ヒトの脳の性分化においても重要な機能を持っていると考えられると説明している。