慶應義塾大学(慶大)は11月16日、ヒト由来細胞から小さな肝臓の凝集体を作り、バイオ3Dプリンターを利用して体外にて培養し、ラット生体内でヒト由来細胞による肝臓組織を生着させることに成功したと発表した。

同成果は、慶應義塾大学医学部 小林英司特任教授らの研究グループによるもので、10月26日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

臓器を丸ごと作り上げる臓器再生研究においては、再生臓器を試験管内や生体で大きく育て上げることが課題となっている。同研究グループでは、試験管内でヒト由来細胞から肝臓の芽である肝芽という細胞凝集体を作り、これを生きた動物体内で育て上げることを課題として取り組んできた。

今回の研究では、肝芽の移植の場として、肝臓に切離面を作りその部分に張り付ける「断端移植法」を開発。ラットで胎児の肝臓を使い、肝芽を肝臓断端と門脈周辺の腸間膜に移植し、その発育を比較したところ、腸間膜への移植では、肝芽はその容積を1/10以下に減衰させるが、肝臓断端への移植では胎児肝臓は2週間発育を続けた。

さらにこの移植法を使って、試験管内でヒト由来細胞の肝芽を作ったうえ、バイオ3Dプリンタで肝芽組織として組織形態を試験管内で行い、さらに免疫抑制したラット肝臓の断端に移植することで、ヒト由来細胞によって移植された肝臓の成熟を促すことに成功した。

今回の成果について同研究グループは、臓器が成熟するためには本来の血流を考えた移植の「場」と、その技術開発が必要であることを証明したものであり、移植分野における臓器の「発育」に関する課題の解決に向けた大きな手がかりになるものと期待されると説明している。

バイオ3Dプリンタで肝芽組織として組織形態を試験管内で行いラット肝臓の断端に移植することで、ヒト由来細胞によって移植された肝臓の成熟を促すことに成功した(出所:慶大Webサイト)