北海道大学(北大)は、サクラマスとその寄生者(カワシンジュガイ)を対象に調査を行った結果、「体力のある感染個体だけが逃げる」という行動をとることを発見した。しかし、この行動は、かえって寄生者の蔓延を助長することも分かった。同成果に関して研究グループは、野生動物における病気蔓延の予測への応用が期待されると説明している。

同成果は、同大 大学院農学院の照井慧 研究員(ミネソタ大学日本学術振興会海外特別研究員)、大上慧太氏、中村太士 教授、北海道立総合研究機構の卜部浩一氏によるもの。詳細は、生物学の国際誌「Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences」(オンライン版)に掲載された。

カワシンジュガイの一生。幼生は成熟すると親貝から水中へ放出され、宿主であるサクラマスのエラに寄生する。寄生に成功した幼生は、寄生期間の間にサクラマスによって別の場所へ運ばれ、稚貝となって川底に定着する (出所:北海道大学Webサイト)

寄生者の蔓延は、動物集団の絶滅にもつながる。多くの場合、寄生者の移動能力は限られ、感染個体の移動が広範囲な蔓延の原因となる。そのため、感染個体の行動原理を解くことが、寄生者の蔓延プロセスの理解につながる。感染個体は生き残り戦術として逃避行動を行うが、移動にはエネルギーを消費することに加え、新たな感染リスクも伴う。そのような状況の中、感染個体がどのような逃避行動をとるのかは分かっていなかった。

今回、研究グループは、「体力のある感染個体だけが遠くへ逃げる」という仮説をたて、サクラマスとその寄生者であるカワシンジュガイを対象に検証を行った。加えて、そうした移動行動が感染者の蔓延におよぼす影響も検討した。

寄生に対するサクラマス稚魚の応答を調査した結果、仮説通り、大きい魚は遠くへ逃げ、小さな魚はその場にとどまるという結果が得られた。また、数値シミュレーションから、未寄生の魚で観察された移動行動を想定した場合と比較すると、寄生者軍団は4倍長い時間にわたり移動をつづけ、約6倍広いエリアに侵入・定着することが分かった。

これらの結果は、各々の感染個体にとっては合理的な行動が、非感染個体も含む宿主集団には寄生者の蔓延という不利益をもたらすことを意味するものであり、研究グループは、他の生物でも同様の現象が起きる可能性があることから、野生動物における病気蔓延の予測への応用が期待されると説明している。