代表的な血液のがんである「多発性骨髄腫」の細胞だけを標的にして抗腫瘍効果を持つ新しい免疫療法を開発し、マウス実験で治療効果を上げることに成功したと、大阪大学の研究グループが7日発表した。臨床研究を経て実用化を目指すという。論文は6日付の米医学誌ネイチャーメディシン電子版に掲載された。

図1 インテグリンβ7の活性型立体構造を標的にしたMMG49・CAR-T細胞療法。骨髄腫の細胞ではインテグリンβ7が多く発現している上に、その多くが常に活性化した構造になっている。一方、正常のリンパ球にもインテグリンβ7は発現しているが、ほとんどの場合不活性型の構造。活性型構造でのみ露出する部位(左図、赤い星印部分)を標的にしたCAR-T細胞で骨髄腫細胞を特異的に攻撃することが可能(提供・大阪大学の研究グループ)

図2 MMG49・CAR-T細胞療法の効果。光(青や赤の色が付いている)の強さが腫瘍量を反映。「コントロールT細胞投与群(図右)」では、腫瘍量が時間の経過とともに増加、あるいはマウスが死亡(写真中の匹数で分かる)。MMG49・CAR-T細胞を投与した群(図左)では腫瘍量は増加せずMMG49・CAR-T細胞による著明な抗腫瘍効果が認められた(提供・大阪大学の研究グループ)

多発性骨髄腫の患者は40歳以上の中年、高齢者が多く、治療には化学療法などが施されるが、治り難いがんとされる。研究グループによると、患者数は約1万8,000人。国立がん研究センターによると、5年相対生存率は30%台と低く、高齢化時代で患者数が増えると予測される中で新しい治療法が求められていた。

大阪大学大学院医学系研究科の保仙直毅(ほせん なおき)准教授らの研究グループは、血液細胞の一種ががん化した骨髄腫の細胞表面では、「インテグリンβ7」というタンパク質が異常に増加(高発現)した上、活性化した構造になっていることを発見した。さらにこうした活性化構造のインテグリンβ7に「MMG49」という抗体が特異的に結合することも突き止めた。インテグリンβ7は正常な血液細胞の表面にもあるが、骨髄腫の細胞表面とは異なり、活性化した構造にはなっていなかった。

これらの研究成果を受け、研究グループは、がん細胞を攻撃する免疫細胞であるT細胞を遺伝子操作してがん攻撃力を高める療法「CAR-T細胞療法」に応用することにした。この療法は「Bリンパ性悪性腫瘍」(リンパ性白血病)の治療に適用されて既に効果を上げている。研究グループは、CAR-T細胞とMMG49を組み合わせた人工的免疫細胞「MMG49・CAR-T細胞」を新たに作製。骨髄腫細胞を16匹のマウスに移植し、その5日後に大量に培養したMMG49・CAR-T細胞を投与する実験を行った。

その結果、投与した骨髄腫細胞移植マウスは投与後約1ヶ月の段階で骨髄腫細胞が顕著に減少したのに対し、MMG49・CAR-T細胞を投与しなかったマウスは時間の経過とともに腫瘍部分の量は増え、死亡するマウスも出始めた。さらに経過を見ると、約2カ月後には投与マウスは12匹が生存していたが投与しないマウスは16匹が40日以内に死亡した。このような効果を確認した研究グループは「MMG49・CAR-T細胞療法」と名付けた。

保仙准教授は「今後医師が主導する治験を行い(今回開発した)新しい免疫療法が患者にほんとうに恩恵を与えるものであることを明らかにしていく」などとコメントしている。

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