早稲田大学は、同大理工学術院の鳥居祥二教授(CALET代表研究者)、同次席研究員浅岡陽一氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)およびイタリア、米国の国際共同研究グループが、国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに搭載された宇宙線電子望遠鏡(CALET:高エネルギー電子・ガンマ線観測装置)で、これまで困難であったテラ電子ボルト領域において、3テラ電子ボルトまでの高精度エネルギースペクトルの測定に成功したことを発表した。この成果は11月1日、国際学術雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

CALETの主検出であるカロリメータ部の装置概要。上から電荷測定器(CHD)、撮像型カロリメータ(IMC)、全吸収型カロリメータ(TASC)(出所:早大Webサイト)

「CALET」は、2015年8月に「きぼう」船外に設置され、同年10月より高エネルギーの宇宙線観測を開始した。高エネルギーの宇宙線がどこからきてどのように加速されたのかは、まだ充分にはわかっておらず、宇宙に残された未解明の問題のひとつとされている。

観測対象である高エネルギーの宇宙線のうち、最も重要なもののひとつが電子だが、高精度でのエネルギー測定、非常に小さい流束を検出する感度、同じエネルギーで1000倍以上となる陽子からの識別——が全て必要で、1テラ電子ボルトを超えるエネルギーを持つ電子を計測することは困難であった。

1テラ電子ボルトの電子事象候補。取得されたデータを可視化したもの(出所:早大Webサイト)

従来の観測装置より高度な機能を有するCALETの検出装置「カロリメータ」は、その特徴を活用し、かつ国際宇宙ステーション搭載によって可能になる長期観測という条件を組み合わせることで、テラ電子ボルト領域にわたる高エネルギー電子スペクトルの精密測定を可能としている。

今回の観測において、これまで困難であった1テラ電子ボルトを超えるエネルギーを、CALETが高い精度をもって直接測定できることが証明された。今後、5年間の観測データを蓄積し全データを解析することで、今回の結果の約6倍の統計量を達成できる。検出器のより深い理解による系統誤差の削減とあわせて、観測エネルギー範囲を拡大し、20テラ電子ボルトまでの全電子スペクトルをかつてない精度で測定することが目的だという。

電子スペクトルの測定において、新発見の可能性は細部(スペクトルの微細構造)に宿っているという。今後はこれらの電子スペクトルの測定により近傍加速源を発見し、暗黒物質の正体に迫ることを目指すということだ。

CALETにより10ギガ電子ボルトから3テラ電子ボルトの範囲で測定された全電子スペクトル(出所:早大Webサイト)