東京農工大学は、ロボットの動作の中に感情を表す動きを加え、人間に感情を伝えるための新しい運動制御方法を開発したことを発表した。また、この制御方法を使用し、実際に表現する感情が人間に伝わるか、感情の種類によって伝わり具合に違いがあるかを調査したことも合わせて発表した。

この研究成果は、同大大学院先端機械システム部門のベンチャー・ジェンチャン准教授、スペイン・カタルーニャ工科大学のバサニエズ・ルイス教授とクラレ・ジョッセプアルノ研究員によるもので、「International Journal of Social Robotics」と「Springer Proceedings in Advanced Robotics」に掲載された。

実験環境・悲しいロボット(出所:農工大Webサイト)

この研究の目的は、「ロボットが人間のように、ある仕事を行いながら同時に感情を伝えるという動作を行うことは可能なのだろうか?」という疑問を解決することであった。仕事の優先順位の定式化はロボット「Pepper」で実装され、そこで優先度の高いタスク(手を振る、物を運ぶ、など)を指定し、人間に感情を伝えるタスクについては優先順位を下げて実施する。

同研究では、アメリカの心理学者であるアルバート・メラビアン氏によって定義されたPleasure(快)-Arousal(覚醒)-Dominance(優越)モデルから感情を変数化し、3種類の動きの特徴(ジャーキネスと呼ばれる動きに加わる「揺れ」、「活発さ」および「視線」)で表現し、これらの動きが人間に感情を伝えているかを調査した。

また、人間は感情を知覚して対象との適切な距離をとるが、ロボットの感情的な動きがその決定に重要であるかどうかを検討した。 この実験では、参加者に"恐がっている"、"悲しそうな"、"嬉しそうな"、または中立的な状態“平穏”を伝えているロボットから、机に座ってアンケートを記入すること、そのあと好きなだけロボットに近づくことの2つの指示が与えられた。

その結果、"嬉しそうな"と"悲しそうな"ことが参加者に伝えられていることがわかった。次に"平穏"がよく伝わっており、"恐がっている"ことはうまく伝えられていなかった。設定した動作と参加者が知覚する感情との関係を分析すると、運動の活発さは「覚醒」と正の相関を示し、ジャーキネスは参加者によって知覚されず、動作があまり活発でないときには視線が「優越」を伝えていた。また、参加者が"嬉しそうな"ロボットと"悲しそうな"ロボットに対して取った距離は、人間と人間の間に認められるものと同様であったという。

ロボットを表した感情に応じて平均距離が異なる(出所:農工大Webサイト)

この成果は、例えば、近い将来に人間とロボットが日常的にやりとりをする場合など、多くのロボットや動作システムへの応用が可能と期待される。また、人間に感情を伝えることに関心がもたれる別の状況として、例えば、ケアロボットが物を運んでいるときに、患者の気分が落ち込んでいると感じて、ポジティブな感情を相手に伝える場合がある。今後は、ロボットが人間により受け入れられるように、適切な感情を伝達することも可能になるという。また、リアルタイムでロボットの感情を変えることでユーザーの感情状況をフィードバックすることも可能になることが期待される。

なお、この研究内容に関するベンチャー・ジェンチャン准教授による講演が、11月10日 19:00~20:30、東京都・三鷹市の三鷹ネットワーク大学において行われる。定員は30人(先着制)。