九州大学は、同大大学院理学研究院/カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I2CNER)/分子システム科学センターの酒井健教授、山内幸正助教、辻優太郎氏、山本啓也氏らの研究グループが、非常に低エネルギーである近赤外光を用いて、水から水素を発生させることに成功したことを発表した。この成果は10月16日、ドイツの学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

今回用いたルテニウム三核錯体が近赤外光によって水素生成を駆動している模式図(出所:九大ニュースリリース)

太陽光を利用した水からの水素エネルギー製造は、クリーンで再生可能であるという点で、昨今のエネルギー問題の有力な解決技術として盛んに研究が行われてきた。しかし、従来のモデルでは、波長が600 nmまでの可視光領域しか利用することができず、十分に太陽光エネルギーを活用できないという状況が続いていた。

そこで研究グループは、分子内に3つのルテニウム中心を含有する金属錯体を光捕集分子として採用することで、近赤外光を用いた水素発生反応に世界で初めて成功した。

これは、従来のモデルよりもおよそ2倍の太陽光エネルギーを利用可能にしたという点で非常に興味深い結果であるといえる。また、天然の光合成でも利用が難しい長波長域の光を人工分子システムで利用可能にしたことから、今後の実用可能な人工光合成システムへの応用が期待されるとしている。

研究グループは以下のようにコメントしている。「近赤外光という目に見えない光を溶液に当てて、水素が発生するのを確認したときには感動と驚きがありました。人工光合成のさらなる発展のために、今後も研究を強力に推進していきたいと考えています。」