東京大学は、スペシャリストとジェネラリストの数は微生物がランダムに各環境に存在していると仮定した場合に比べていずれも多く、実際に多くの微生物がこれらのふたつの戦略を取っていること、さらに、スペシャリストはジェネラリストよりもずっと多く、生物学研究で頻繁に用いられる微生物である大腸菌を含む「プロテオバクテリア門」に属する微生物には、ジェネラリスト戦略をとる微生物が多いことなどを明らかにした。

この研究成果は同大生物科学専攻 特任研究員(研究当時、現:タイ チュラーロンコーン大学 講師)のシラ シサワスディ氏、生物科学専攻 特任研究員の楊靜佳氏、生物科学専攻 岩崎渉准教授の研究グループによるもので、10月27日、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

各環境にどの微生物が存在するかを網羅した"カタログ"作成手法の模式図(出所:東大Webサイト)

自然界には、様々な環境に対応できる「ジェネラリスト」戦略をとる生物のほか、特定の環境に特化した「スペシャリスト」戦略をとる生物が存在するが、「どちらの戦略が有利なのか?」「なぜふたつの戦略をとる生物が共存するのか?」といった根本的な疑問に対する解析はされていなかった。

この研究では、61種類の環境から得られた微生物群集大量シーケンスデータの解析と、多様な微生物グループにわたる進化解析とを組み合わせた生物情報科学的手法による解析を行った。 その結果、ジェネラリストは絶滅率に対して高い種分化率を持つこと、一方で、スペシャリストは種分化率に対してかなり高い絶滅率を持つことが判明した。このことは、ジェネラリストの方が生物進化の過程で子孫を繁栄させる上で有利であることを意味している。

一方、微生物がジェネラリストばかりにならない理由として、推定結果からジェネラリストが進化の過程でスペシャリストに変わる速さの方が、スペシャリストがジェネラリストに変わる速さよりも大きいことが推定された。これは、ジェネラリストは有利ではあるが「ジェネラリストであり続ける」ことが難しいことを意味しており、それぞれの環境における厳しい生存競争に勝つために、ジェネラリストはスペシャリストにならざるを得ないかもしれない。

現れる環境の種類に基づく微生物のスペシャリスト・ジェネラリストへの分類(出所:東大Webサイト)

研究グループは、これらの結果から、微生物生態系におけるジェネラリストとスペシャリストの共存のバランスは、「ジェネラリストによって駆動される進化」によって保たれると考えている。まず、ある環境に特化したスペシャリストがいる状況を考え、進化の過程でスペシャリストがジェネラリストへと変わると、そのジェネラリストは他の環境へと移動できる。この結果から、ジェネラリストは速く種分化するほかスペシャリストに変わりやすいという特徴を持ち、微生物生態系におけるジェネラリストとスペシャリストの共存のバランスは、こうした「ジェネラリストによって駆動される進化」によって保たれているとしている。

2状態種分化絶滅モデル(BiSSEモデル)によって推定されたスペシャリストとジェネラリストの進化パラメータ(出所:東大Webサイト)