理化学研究所(理研)は10月24日、マウスを用いて免疫活性化を起因とする不安・恐怖亢進メカニズムを明らかにしたと発表した。

同成果は、理研統合生命医科学研究センター粘膜免疫研究チーム シドニア・ファガラサンチームリーダー、宮島倫生研究員、章白浩特別研究員らの研究グループによるもので、10月23日付の国際科学誌「Nature Immunology」オンライン版に掲載された。

免疫細胞のひとつであるT細胞は、病気などによって活性化されると、細胞内代謝を変化させることで持続的に増殖したり、エフェクター機能を発現したり、免疫記憶をつかさどったりすることが知られている。しかし、持続的な免疫細胞の活性化が細胞外の全身性のメタボロームに与える影響は明らかになっていなかった。

今回、同研究グループは、慢性免疫活性化モデルであるPD-1欠損マウスを解析し、活性化したT細胞により全身性の血中メタボロームプロファイルが変化することを明らかにした。なかでも、トリプトファンやチロシンなどアミノ酸の血中濃度が減少していた。リンパ節で活性化・増殖したT細胞が細胞内にトリプトファンやチロシンを多量に取り込むことが原因であると考えられる。

また、トリプトファンやチロシンはPD-1欠損マウスの脳においても減少しており、それらを前駆体とする神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンも脳で減少していた。さらに、セロトニンやドーパミンの減少に伴い、PD-1欠損マウスでは不安様行動や恐怖反応が亢進していることがわかった。

今回の結果から、精神疾患のなかには、免疫活性化に伴うメタボローム変化に起因して発症するものが予想されることから、同研究グループは今後、実際の精神疾患の患者において、免疫系の活性化、免疫系遺伝子の変異、メタボローム変化を調べることで、これまで不明だった発症原因の解明につながるものと説明している。

免疫活性化を起因とする不安・恐怖亢進メカニズム (画像提供:理化学研究所)