大阪市立大学は、2000年から開発を進めている人工神経(神経再生誘導管)が、神経再生に加えて、神経の癒着を予防し神経障害を軽減する効果も併せ持つことを明らかにしたと発表した。

生体吸収性人工神経(出所:大阪市立大学プレスリリース)

同研究は、大阪市立大学大学院医学研究科整形外科学の新谷康介医師、上村卓也病院講師、中村博亮教授らのグループによるもので、同研究成果は、日本時間10月20日神経科学の国際学術誌「Journal of Neurosurgery」にオンライン掲載された。

末梢神経の手術(神経の剥離や縫合)では術後、神経が周囲組織と癒着し、しびれや痛みなどの神経障害が出現する問題が生じるため、実際の手術では、血管や脂肪で神経を包んで保護し、神経の癒着を防止するという方法が用いられている。しかし、この方法は健常な組織を犠牲にすることになるため、神経の癒着防止材の開発が進められてきたが、日本で臨床応用されている神経の癒着防止材は未だないのが現状となっている。

人工神経による神経保護のイメージ図(出所:大阪市立大学プレスリリース)

同研究グループは、これまで人工神経の開発を進めており、人工神経で神経を包み込むことによる癒着予防・神経保護効果について検証を行った。人工神経は生体吸収性の素材からなり、サイズはラットの坐骨神経(直径1.5mm)に合わせて内径2mmとした。人工神経の管腔壁は二層構造で、内層はポリ乳酸とポリカプロラクトン(50:50)の共重合体スポンジで構成され、神経に優しい構造となっている。外層はポリ乳酸のマルチファイバーメッシュで構成され、強度を維持する構造となっている。このため、既存の人工神経では得られない非常に柔軟性の高い人工神経となっているという。

検証では、ラットを「神経剥離のみを行った群(非癒着群)」、「神経癒着処置をした群(癒着群)」、「神経癒着処置の後に人工神経で神経を包んだ群(人工神経群)」、「神経癒着処置の後に神経周囲にヒアルロン酸を散布した群(ヒアルロン酸群)」に分け、比較検討を行った。術後6週間経過後では、肉眼でも組織学的にも癒着群では神経が周囲組織と強固に癒着していたが、人工神経群では明らかに神経周囲の癒着は軽度で、非癒着群に近い結果となった。神経の伝導速度は、癒着群で最も遅く、人工神経群は癒着群に比べて伝導速度が速く、非癒着群に近い結果となった。また、人工神経で神経を包み込むことによって組織学的に神経の変性が軽減し、癒着による神経障害が抑えられたため筋肉(腓腹筋)の萎縮を防ぐことができた。

今回の研究により、開発を進めている人工神経は神経再生機能だけでなく、神経を包むことで新たに神経癒着防止・神経保護機能も有することが明らかとなった。この人工神経は、神経剥離術や神経縫合術いずれの手術においても癒着防止デバイスとして使用可能であり、人工神経の市場性の拡大が期待されるという。また、神経障害が軽減することから、術後成績の向上につながることに加え、この人工神経は非常に柔軟であり、内層のスポンジ構造が神経に保護的に作用するという。内層スポンジ層を足場として、細胞や神経成長因子を組み合わせることも可能であるため、今後、単なる癒着防止材にとどまらず、神経再生機能と癒着防止・神経保護機能を兼ね備えた次世代の神経ラッピングデバイスとしても応用可能だということだ。