Appleがシカゴにオープンする新旗艦店を先行体験 - "建築の街"に新たな名所

米Appleが10月20日(現地時間)に米イリノイ州シカゴに新しいフラッグシップストア「Apple Michigan Avenue」をオープンさせる。米国では昨年のユニオンスクエア店(カリフォルニア州サンフランシスコ)に次ぐ新世代のフラッグシップストアであり、シカゴのためにデザインしたというユニークなデザインには、Appleが考えるこれからのリテールストアの役割が込められている。

建設中には「屋根がまるでMacBook」と話題になったが、実際には大きなMacBookという感じではない。この屋根は見る角度によって薄い屋根になったり、大きな屋根に見えたりと、建物の印象を変化させる

Appleが2003年にシカゴの北ミシガン・アベニューに開店した直営店は、Appel Store初のフラッグシップストアだった。高級ブランドやデパートが並び、ニューヨークの五番街と比べられるようなショッピングストリート 「マグニフィセント・マイル」の中心にあった。新しいフラッグシップストアは同じマグニフィセント・マイルでも、南端のシカゴ川の川沿いに作られた。川沿いにはローカルアーティストのグラフィティが描かれていたりと、高級ブランド店に囲まれていたこれまでのフラッグシップストアとは雰囲気が異なる。

高級ブランドが並ぶマグニフィセント・マイルの中心にあった、これまでのシカゴのフラッグシップストア

ミシガン・アベニュー橋の近く、目の前がシカゴ川という立地の新フラッグシップストア「Apple Michigan Avenue」

新世代のストアをAppleは「タウンスクエア」と呼び、そして「人々が集う場所 (gatheing place)」と表現している。テクノロジーと地域コミュニティ、そして地域のアーティストの接点となる場である。タウンスクエアというコンセプトは、オンラインストアの成長で実店舗型の小売店が低迷する問題に対するAppleのソリューションと言える。オンラインと実店舗の両方を持っていたら、実店舗は顧客が商品を手に取って確かめられる場と割り切るという考え方もある。でも、そんなショーケースのような実店舗であることがリテールストアの未来なのだろうか?

実店舗型の小売店の最大の特徴は、その街の一部であることだ。たとえば、サンフランシスコに住む人にとってユニオンスクエアの広場は街の一部であり、待ち合わせや買い物で疲れた時の休憩などに気軽に使っている。そんな人々が気軽に訪れられる場所が、Appleの考えるこれからのリテールストアである。製品を試したり、買い物をする時だけではなく、普段から立ち寄ることができるパブリックスペースである。Appleの直営店なのだから、Apple製品ユーザーのための店であるべきと考える人もいると思う。だが、たくさん人が集まる場にすることで、より多くの人がApple製品に触れるチャンスが生まれるという考え方もできる。商品のショーケースのような店だったら、新製品が出た時ぐらいしか人々が訪れなくなる。

川辺の公園という感じで、人々が集まりやすいスペースになっているミシガン・アベニュー店

対照的なのが、すぐ近くにそびえ立つトランプ・タワー、川にせり出すように建っていてリバーウォークが台無し……

Appleが川沿いを新フラッグシップストアの場所に選んだのは、シカゴ川の周辺の開発が市の懸案となっていたからだ。街の中心を川が流れているのに、船からの観光ぐらいにしか活用されていない。川沿いの散歩道 (リバーウォーク)もあるが、急な階段でしかアクセスできなかったり、狭かったりと、その価値が引き出されていない。たくさんの人が集い、様々なアクティビティが行われるリバーフロントにしたいのだが、市が望むように開発は進んでいない。そこで「ストアは街の一部」と考えるAppleが行動に移した。

ミシガン・アベニュー店は河岸に作られている。2階建てのビルだが、河岸の傾斜に立っているため、マグニフィセント・マイル側 (北側)からだと平べったい建物にしか見えない。逆に川側から見ると、大きなガラスで覆われた2階建ての建物である。

ショッピング通りのマグニフィセント・マイル側から見たミシガン・アベニュー店は平たい建物

川側から見たミシガン・アベニュー店は、大きなガラスの建物で目立つ

この河岸の「傾斜」がデザインのポイントになっている。店に入って傾斜に沿って作られた階段の上に立つと、目の前に大きくシカゴ川が広がる。ユニークな立地と景色に圧倒される。そして建物の横に並ぶように、屋外に「プラザ」と呼ばれるベンチが置かれた広いオープンスペースが用意されている。プラザも傾斜に沿って階段状に作られていて、ミシガン・アベニューから歩いてくるとプラザが広がり、プラザの緩やかな階段を降りると川沿いの散歩道に到着する。これまでのように川に降りるために急な階段を下りる必要はない。ミシガン・アベニュー店の一部であるプラザが、まるで都市設計でそうなっていたかのように、市が望むリバーフロントへの自然なアクセスになっている。このプラザは、マグニフィセント・マイルでの買い物に疲れた人たちの休憩場所に使われるだろうし、アクセスしやすいプラザからリバーウォークを楽しむ人も増えそうだ。

川岸の傾斜に建っているので、ストア内に入ると目の前にシカゴ川が広がる

ストアの横に設けられた「プラザ」は誰でも使用できる屋外スペース。プラザを降りていくと川沿いの散歩道、この大きな散歩道を伸ばしてリバーフロント化させるのが市の希望

川側から見たプラザ。通りからストア前の広場を通って、まっすぐリバーフロントにアクセスできる。緩やかで広い階段になので、小さい子供やお年寄りでも大丈夫

「誰でも歓迎する」が新しいストアのビジョンであり、誰もが気軽に立ち寄れるようにするには「オープンなスペース」であるべきである。ミシガン・アベニューから真っ直ぐリバーウォークに抜けられるプラザのデザインもその1つ。またストアは、側面が全てガラスになっている。内と外の境界が透明で、屋内と屋外が続いているような開放的な空間になっている。

ストアの側面全体にガラスが用いられているので、屋外と屋内の境界がおぼろげ、さらに屋外のプラザの階段とストア内の階段が続いているようなデザインが開放感を高めている

カーブしたガラスによる美しいコーナー

シカゴは建築の街である。街を歩けば、自然と上を見上げてしまうほど、個性的なビルが並び、そして巨匠フランク・ロイド・ライト氏が拠点としていたことでも知られる。ライト氏は、人と自然の調和を図った建築の先駆者である。また人を中心にしたデザインを心掛けた建築家でもある。それらはAppleが近年のApple Storeやタウンスクエア、Apple Parkなどで実践していることである。川と共にある建物、街に暮らす人々の生活を意識した空間設計、サステナビリティと100%再生エネルギー、そしてシカゴであることを考えると、薄い屋根で高さを抑えたミシガン・アベニュー店のデザインがライト氏のプレイリースタイルへのオマージュに思えてくる。

側面全体がガラスなので、日中は自然光がふんだんに取り入れられる

薄い屋根で水平線が際立つたたずまい

「ストア内の構成はユニオンスクエア店と同じだ。2階部分にジーニアスのサポートを受ける「ジーニアス・ギャラリー」。メインフロアは半分が商品のショーケース・スペースである「アベニュー」、そしてストア内のコミュニティスペースであり、無料の学習講座「Today at Apple」などイベントにも使われる「フォーラム」だ。

Apple製品を体験できるショーケース・スペース「アベニュー」

ワークショップやセッションなどに用いられる「フォーラム」には巨大なLEDビデオウォール、イベントが行われていない時にはコミュニティスペースとして誰でも使用できる

「やりたいことがある」「実現したいことがある」というのは、人々に行動させ、コミュニケーションを促す動機になる。だから、Appleは「Today at Apple」という学びの機会を提供している。ミシガン・アベニュー店のオープンと共に、「The Chicago Series,」という地元のアーティストやインキュベーター、非営利団体と作り上げたプログラムをスタートさせる。起業アイディアを実現させる「Accelerate Your Startup Idea with 1871」、ポエムやグラフィティ、ラップでストーリーを伝える「Cultivate Your Voice with Young Chicago Authors」など、5つのセッションはいずれもジャンルが異なるが、テクノロジーとアートをテーマに、地域コミュニティにポジティブな影響を与えることを目的としたプログラムという点で共通している。

コミュニティのためのタウンスクエアは、Appleによる「シカゴへの投資である」とリテール担当シニアバイスプレジデント、アンジェラ・アーレンツ氏

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